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2001/01/05

視覚を越えて・巡りて 日高理恵子・光島貴之の絵画

「見ることを越えて知覚する絵画」


art127_03_1それぞれの作家の空間が独立しつつ並存する展覧会場。奥の壁面は光島貴之の作品「指先で街を歩く-北大路堀川からギャラリーK(東京・銀座) へ」


■「視覚を越えて・巡りて」と題した、日高理恵子と光島貴之の二人展。会場は日高理恵子の作品空間と光島貴之の作品空間を壁で区切り、それぞれの場を個展形式で体験しつつ、入口からは両空間を見ることができる構成。

■日高理恵子の空間へ踏み込むと、からだが樹々にすっぽり包まれる。光がこぼれる葉のさざめき。画面をはみだしそうに広がる枝から、遠く望む空。樹の下で真上を見上げて描かれた絵が、ここでは床に立つ自分と水平の目線で提示される。しかも三面の壁に囲まれて。頭上の風景が位置をずらして見える揺らぎに、身体感覚は360度・全方位の樹の空間へと誘われる。

■彼女の作品は麻紙に胡粉と岩絵具で描かれている。岩絵具は緑青を焼き、黒みを帯びた色で使うのだという。紙に膠で粒子を定着させたその絵肌は、天に抜ける空にも似た、透明な奥行きを持っている。今回1点だけ、ドイツで制作された綿布にアクリル彩色の作品があり、その質感は表層の皮膚呼吸を妨げられたような感触だ。素材による印象の差異が、肌触りとして空気感で伝わってくる。

■光島貴之の作品は、紙やアクリル板に製図用のラインテープとカッティングシートを貼って描かれる。先天性緑内症で10歳の頃に視力を失った彼は、指先に触れる感触で、イメージを画面に定着していく。色は幼年期の記憶と「深い青」などの言葉を基に選ぶそうだ。その作品はさまざまな知覚の楽しさを絵にして見せてくれる。

■缶コーヒーを、蓋と側面と底に切り開いて展開した作品。自宅から東京への道のりを、点字ブロックや階段、新幹線の座席などで示しながら、車の音が流れる線や、白い杖をつく点線でたどった作品。足跡を紙に落とした旅絵巻は、移動する姿を上空から見守るような俯瞰図になった。この作品は観客も立体コピーを触ることで道のりを追体験し、音声テープで街の音を聞くことができる。

■見えるか見えないかは文化の違いだと、光島さんは話されていた。この二人展は異文化のセッションであり、観客もまた作品に接して異文化に遭遇する。美術館からの帰り道、私は何度も歩いていた通りで、初めての風景に次々と出会った。芽吹きの季節を迎えた木々を見上げて、まだ少し肌寒い風を頬に感じつつ、自分を取り巻くさまざまな音に耳を傾けながら。


流動する美術-VII 視覚を越えて・巡りて
日高理恵子・光島貴之の絵画
2001年1月5日(金)~3月25日(日)
福岡市美術館 近現代企画展示室
福岡市中央区大濠公園1-6
(地下鉄「大濠公園」駅下車、徒歩10分)
9:30~17:30
月曜日休
一般200円、高大生150円、小中生100円
TEL.092-714-6051

words:中山真由美

◆参考:光島貴之さんが参加している触覚連画のサイト
http://www.renga.com/index_j.htm
◆同時期開催の展覧会
北村良子と光島貴之による「記憶の賞味期限」展
3月15日(木)~18日(日)
神戸アートビレッジセンター KAVC1Fギャラリー
10:00~19:00 入場無料

art127_03_2日高理恵子作品「樹の空間からV」

art127_03_3ドイツ滞在中の作品「樹の空間からII」(部分)
綿布にアクリルと岩絵具で描かれている

art127_03_4日高理恵子の作品空間

art127_03_5光島貴之の作品「罐ビール」は、斜台の立体コピーに触ることができる

art127_03_6音声テープをスキャントークリーダーでなぞると音が聞こえる

art127_03_7光島貴之作品「背中」
透明のアクリル板から壁面に映る影もおもしろい

2001-01-05 at 01:47 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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