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2001/01/23
美術館を読み解く−表慶館と現代美術展
「そもそも展覧会ってなんだ?」
表慶館外観。入口両側にはライオン像
■私にとって、東京国立博物館の表慶館は、なごみ空間だった。表慶館は、大正天皇の結婚を記念し明治41年(1908年)に竣工、翌年に開館した東京最古の美術館。赤坂離宮や奈良・京都の国立博物館を手がけた片山東熊(とうくま)の設計によるネオ・バロック様式で、震災もくぐり抜けた建物だ。
■しかし本館ほど重厚さはない。ホールの天井画や床のモザイク、らせん階段なども派手さはなく、時代に遅れた華族の屋敷のようで、時間がゆっくり流れる。平成館に移るまでは、埴輪や土器の考古遺物やアイヌの民族資料などが展示されていた。開館当初は古美術、戦中にはプロバガンダ的な「満州国宝展」などもあり、戦後はマティス展などが行われていたことを今回知った。
■現在開催中の現代美術展は、展覧会の展示方法について問い直す企画だ。入ってすぐの吹き抜けホールには、松井紫朗の巨大なじょうご型のインスタレーション。穴の中から天井を見上げると、空が透けて見える。この作品は、後で2階から見下ろす楽しみもある。表慶館は左右対称で、同じ形の部屋が9室。じょうごを縦軸とし、別の部屋では展示ケースにパイプを通し横軸を示した。“見通し眺める"展覧会の構成について思い返す。
■展示物は保存や見え方が天候に左右されないよう照明の光で見せるのが常だが、栗本百合子は窓のパネルを外し、白い布を貼った。電気設備の乏しかった表慶館は、もともと外光を取り入れる造りであったという。
■のぞき見えるビルの一室のような谷山恭子のインスタレーションは、展示ケース内の作品を一方的に見るだけではなく、自分が空間の中に入るかのように内と外を往来させる。フェルナンデスの白い砂丘は、自然界の万物をケースに収めると同時に、反射による山脈のような連なりが、外の世界への広がりをも表す。
■高柳恵里は、本を小休止させるようなホルダーや、小穴の空いた紙袋、粘土でつくったか細い木の立体など数点を展開。表慶館の、釘の跡や窓の紐、木片がはがれそうな桟など、ホワイトキューブが理想ならば展示の目的から外れる“手跡"のような、中途半端な解れ目の豊かさに気づく。
■そして、平成館の「土器の造形展」や考古遺物、本館の日本美術などできればすべて回ってほしい。現代美術は、対西洋美術で語られることが多いが、日本独自といえる土器、弥生時代以降の大陸との交流、生活と美術、土や木や鉄や銅などの素材、人物の表現、着物という平面、そして現在ある自分へと交差して考えられるから。
美術館を読み解く-表慶館と現代美術展
2001年1月23日(火)〜3月11日(日)
東京国立博物館 表慶館
東京都台東区上野公園13-9
(上野駅公園口より徒歩10分)
9:30〜17:00(入館〜16:30) 月休
一般420円 大高130円 中小70円
TEL.ハローダイヤル03-3272-8600
words:白坂ゆり
松井紫朗「Parascope」2001年 中から見上げた様子は、口絵写真を参照。
栗本百合子「the north stairwell」2001年
谷山恭子「Three Rooms」より 2001年 展示ケースのガラスを外した。
高柳恵里「ブックホルダー」2000年
テレジータ・フェルナンデス「砂丘」2001年
2001-01-23 at 09:48 午後 in 展覧会レポート | Permalink
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