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2000/11/24
vol.26 池上 恵一 (Keiichi Ikegami)
「"凝り"が世界を測るものさしにもなっている」
カラダの「凝り」を、絵画にしてしまったのが「マッサージペインティング"池上式"」。カラダを揉んでゆき、親指で押さえたときの凝りの感触を、直に親指に絵の具をつけて、紙などに転写 をする。11月の広島市現代美術館ミュージアムスタジオでの個展では、初日に市民を募って「マッサージペインティング・セミナー」を開き、「凝り」のペインティングを参加者にも描いてもらい会場に展示をした。
12月には大阪での個展も控えている池上にインタビューをした。
「凝り」をペインティング作品にしていこうと思いついたきっかけは何ですか?
■学生時代に、周囲の人たちの肩もみをしていたときに、連続して人のカラダに触れると、感触が千差万別だということに気付いたんです。この感触を自分の作品として見せることができないかと思い、はじめてみました。
以前はペインティングではなく、トルソーなどを用いた作品もありましたよね。
■どうすれば「凝り」のかたちを表現できるだろうかと思って、トルソーに石をつけたような方法で「凝り」を見せようとしたこともありました。実際は、「凝り」には具体的にカタチと呼べるものはないんだと思うんです。でも、手に受けた相手のカラダの感触はあります。
医学の勉強もされたとか。
■専門学校で基礎医学の勉強を1年半しました。不謹慎かもしれませんが、普通は、人命を救うとか、病気を治すことを学ぶために学校に入るわけですが。僕はそういうことに興味があったのではなく、人のカラダに興味があったんです。最初、なかなか入学を許可してもらえませんでした。なんとか入れてもらって勉強しました。
広島市現代美術館での展覧会タイトルは「マッサージペインティング"池上式"」となっていますが、「池上式」というのは特別な趣向があるのですか?
■「池上式」を考えついたのは、2年前に大阪であった「テクノテラピー」展のときです。他人のカラダを揉んでいって、その感触を黒いシートに転写するという描き方でした。自分が感じた人の凝りを写してゆくので、厳密に言えば、揉んだ相手の凝りというよりは、自分自身を投影したものでもあるかもしれないんですよ。
11月3日に広島で行なわれた「マッサージペインティング・セミナー」はかなり盛り上がったと聞いていますが。
■参加者は14組28名でした。10代から70代まで年齢層も幅が広く。御夫婦であったり、孫とおばあちゃんという関係だったり、学生のカップルだったりといろんなペアでした。お互いにカラダを触って凝りを確かめて、それを壁に転写してゆくんですが。こんな場じゃないと、おばあちゃんが孫のカラダを揉んだりすることって、普段はありえないことですよね(笑)。
セミナーはワークショップ形式というか、池上式の作品制作の思考のプロセスやコンセプトを、参加者にも共有してもらうといった要素もあったかと思うのですが。
■マッサージを通して、人に直に触れるので、コミュニケーションをテーマにした作品と取り違えられることもあるのですが。僕自身には、そういったつもりはないんですよ。
僕は子供の頃に病弱で学校を休みがちだったんです。コンプレックスがあって、他人とのコンタクトのとるきっかけとして、はじめは人に触れることを考えていたんです。でも、ただカラダにべたべた触るのは、ヘンじゃないですか。それで、肩もみの真似ごとを相手にしたりした。確かに、発端はこんなことだったのですが。
でも、今回のセミナーでも、マッサージを互いにやり合うことによって、相手とのコミュニケーションが深くなったと思った人はいないのではないかと思います。手で得た感触を紙のうえに絵の具で写 してゆくのも、自分が感じたことを正確に写そうと努力する、ある意味では自分探しなんですよ。
参加者の皆さんの「凝り」のペインティングも展示されたんですよね。
■はい、そうです。実際に相手の凝りを確認することは難しい。相手の凝りの絵だと思って目の前にあるのは、自分の凝りの自画像に近いんですよ。人の凝りを介して実際には自分自身と出会っている、ということをセミナーの一番最後に皆さんに言ったら、一瞬どよめきが起こって、なんとなく納得していたような雰囲気でしたね。
セミナーを通して、感じたことなどありますか?
■絵などを描いた経験があまりない人のほうが良かったように思います。描こうとしてはダメなんだな、ということを確信しました。三次元で得た感覚を、二次元に置き換える作業が、僕自身も学生のときに、考えれば考える程、「描こう」なんて思うとうまくいかなかった。
池上さんにとって「凝り」ってなんですか?
■学生時代はどうしたら、「凝り」を芸術と結び付けられるだろうかと悩みました。でも、いまは自分が気付いたことを、目にみえるように表現できたらそれでいいと思っています。毎日生きる上で「凝り」は大きなキーワードになっています。僕にとって「凝り」がひとつ世界を測るものさしにもなっているんです。
池上恵一展
2000年12月4日(月)〜12月16日(土)
キュービックギャラリー
大阪市中央区備後町3-1-2アトラスビル201
12:00〜19:00 (日・祝休、最終日〜17:00)入場無料
TEL 06-6229-2321
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(写真撮影:西田浩 資料協力:広島市現代美術館)
words:原久子
「マッサージペインティング・セミナー」風景
(広島市現代美術館ミュージアムスタジオ)
「マッサージペインティング・セミナー」風景
(広島市現代美術館ミュージアムスタジオ)
「マッサージペインティング・セミナー」風景
(広島市現代美術館ミュージアムスタジオ)
「マッサージペインティング・セミナー」風景
(広島市現代美術館ミュージアムスタジオ)
「マッサージペインティング“池上式"」展 会場風景
(広島市現代美術館ミュージアムスタジオ)
「マッサージペインティング“池上式"」展 会場風景
(広島市現代美術館ミュージアムスタジオ)
「マッサージペインティング“池上式"」展 会場風景
(広島市現代美術館ミュージアムスタジオ)
「マッサージペインティング“池上式"」展 会場風景
(広島市現代美術館ミュージアムスタジオ)
池上恵一
(Keiichi Ikegami)
1972年 大阪生まれ
1997年 京都精華大学大学院美術研究科造形専攻洋画分野修了
個展
1995年 ギャラリー16(京都)
信濃橋画廊(大阪)
1996年 ギャラリー16(京都)
キュービックギャラリー(大阪)
1997年 キュービックギャラリー(大阪)
2000年 「マッサージペインティング"池上式"」
広島市現代美術館ミュージアムスタジオ(広島)
主な企画展など
1996年 「神戸アートアニュアル'96」
(神戸アートビレッジセンター)
「アートナウ'96」(兵庫県立近代美術館)
1998年 「森村泰昌プロデュース・テクノテラピー」
(大阪中之島中央公会堂)
2000-11-24 at 12:51 午後 in アーティスト・ヴォイス | Permalink
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