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2000/10/20

藤田淳展

「僕らには音楽とアートがある」


■小学生の頃、引っ越したばかりの家でラジオをつけて洋楽と出合った。登下校に友達と、あるいは心の中でいつも歌を歌っていた。はじめて洋楽のレコードを親に買ってもらったときのワクワク感は、今CDショップに行っても思い出す。「僕らには音楽がある」という言葉には深くうなずける。

■けれど、音楽は手にとれない。耳を擦り抜ける。それを、藤田淳は手で描いたり、カッティングシートを使って絵画に表現していた。テクノやジャズ、パンクを聴き、ドラムも叩くという彼の絵画からは、泡のようなあるいは波紋のような音、街のノイズ、宅録の魔法のような音などが勝手に想像で楽しめる。でもそれはテクノのループのように、色や形のパターンのなかで自由な空気を漂わせているようだった。毎日の繰り返される生活の中に音楽も絵画も自然にあり、解き放たれたり小さな波風を立てたりしているように思えた。

■'97年、彼は西日暮里という町で「NAS」というアーティスト主導のスペースを立ち上げ、展覧会とライブイベントなどを行っていたが、1年ももたずに活動を終えている。他の作家は仕事で忙しく、彼が慣れない運営や広報をほとんど背負っていた。「あの頃は自分が自分でいられなかった」と言う。私自身も含め、周囲のバックアップがほとんどなかった。あれは自然淘汰ではなかったと思う。それからも、彼は描き続けている。そのせいか彼の絵には、たゆたえる気持ちよさだけでなく、パンク・スピリットのような悔しさや気概がどこかで鳴っていると感じている。

■彼が美術と音楽の両方を携えるように、私も、どちらも生きるのに大切だ。美術は音楽に比べ、見る側がゆったりと自分の時間で見られる。日常生活の中でも何度も反芻でき、ゆっくりと降りてくる。美術では、自分の内面に突きつけられることもある。音楽と美術、楽しさと苦しさの両方で、生きるバランスをとっているのだと思う。

藤田淳展
2000年10月20日(金)〜11月1日(水)
ロゴスギャラリー
東京都渋谷区宇田川町15-1
渋谷パルコパート1 B1F
(JRほか渋谷駅7分、公園通り沿い)
10:00-20:30(11/1〜18:00) 無休
TEL.03-3496-1287

words:白坂ゆり


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「Untitled(turn table single size)」

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会場風景

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「Untitled(LP size)」

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「Untitled」(部分)

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「Untitled(Snare drum)」
ドラムヘッドにカッティングシート

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「Untitled」

2000-10-20 at 05:08 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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