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2000/10/10

田中朝子展

「わくわくするような出会い」


art118_03_1会場風景/壁にはキューピーをシルクスクリーンで刷ったもの。布で覆った台のうえにはさまざまなものが載っている。


■画廊のなかで、作品をみるためにあっちにまわったりこっちに来たり、うろうろとしながら、幸せな気分になっていく自分に気付く。青い表紙がやや色褪せたような広辞苑。たくさんのピンの刺さった針山。アルミの洗面器のなかには山盛りのセピア色の写真。写真は、正岡子規のポートレイトと、絵の断片を接写したものだ。

■絵は実はジグマール・ポルケのもの。しかし、ポルケに特別な思いがあるわけではないという。選んだのは、その絵に、テーブルの上が描かれていたから。いろいろなものがぽつりぽつりと並んでいる。どれをみていても、作家の感じたイメージに触れることができる。まだ会ったことのないこの作り手を、とても近く感じることが出来た。

■表面張力で、ビンの口に液体が盛り上がっている。緊張をはじけ飛ばすように、気泡がときおり口の真中あたりから上がってくる。これには、仕掛けがあるのだが、静かな作品にちょっとした動きを与えたかったという作家の企みにまんまと引き寄せられてしまった。

■もともと版画からはじめたという田中。今回も、版画を用いた200ページ以上に及ぶ大きなアルバムのようなアートブックもいっしょに並んでいた。押し花のようにページの間にあらわれる桜の花びらなど、ページの間に挟まっている多様なイメージが、ページをめくるごとに心をくすぐる。インクではなく油絵の具を使っているので、染み込むような独特の質感で表現されている。

■既製のものがほとんどで、特別なものではない。だけど、どこにでもあるものではない。見ているとなにかわくわくするのは何故だろう。気になりつつも、置き忘れてきた大事なものとの再会にも似ているような気がする。作品のタイトルは、画廊内の展示全体で「イメージの虫干し」という。心の引出しに貯めこんだイメージの断片を、人目にさらして虫干ししている。   

田中朝子展
2000年10月10日(火)~22日(日)
ギャラリーアーティスロング
京都市中京区三条通堀川西入ル橋西町607
12:00~19:00(月休)入場無料
TEL075-841-0561

words:原久子

art118_03_2台のうえ

art118_03_3水玉のラベルを張った茶色いビン。よく見ているとときどき気泡がはじける。

art118_03_4このキユーピーどこかおかしくないですか?

art118_03_5シャーレに入ったナフタリン。この“ベタ”な小ネタに笑いをこらえきれなくなる。

art118_03_6空っぽに見える額の前にレンズの入っていない眼鏡フレーム。(実際に空っぽなんです)

2000-10-10 at 05:19 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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