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2000/10/29

榎忠展

「都市に隠されたもの」  


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グストハウスでの展覧会初日。薄暗い照明のなかに鉄砲が鈍く光っていました


■ この春にあった「空き地」展(豊田市美術館)という展覧会を覚えている人はけっこう多いと思う。あの展覧会場のなかでも一際異彩を放っていたのが榎忠さんの作品だった。鉄を鋳造した鈍い光を放つ200の鉄砲(型の彫刻)がずらりと完璧な配置で並んでいた。

■ 榎さんは関西では「エノチューさん」とか「チューさん」と親しみをこめた呼び名で通っている。今回はそのチューさんの地元・神戸での久しぶりの個展が開かれた。約190の鉄砲が、画廊の壁にたてかけられたり、床に無造作に積み上げられたりしている。物を破壊し、生き物の命を奪う危険のある鉄砲。しかし、弾をこめられることのない鉄砲は、ただただ美しい造形物として愛でる対象にすらなり得ている。ぼんやりとした薄暗い照明を浴びながら沈黙をする作品。

■ この展覧会会期中の11月3日(文化の日)にパフォーマンスが決行された。参加者といっしょにJRの1駅分にあたる神戸・湊川神社の傍らの画廊から、個展の第2会場となる元町のレストランまで、鉄砲を持って移動するというものだ。まずJR神戸駅前を経由して、商店街を歩いて、元町駅の横を通り過ぎて最終地点のレストランに続く。

■ 移動のパフォーマンスは、予想していた以上に参加者が増えたために、10人ほどの1グループにつき4丁程度の鉄砲が配られた。順番に運び手を交代し、おしゃべりをしながらのんびりとした列が続いた。なかでも、特殊な風景をつくっていたのは、制服を着た数人の女子高校生たちのグループである。交代しては、お互いにポーズをとって楽しげに写真を撮り合っていた。行列のなかにシリアスな表情の人はほとんど見受けられない。商店街の雑踏のなかを歩くというゲリラ的なパフォーマンスだったが、危険を感じて逃げ出す人など誰一人いなかった。

■ だが、一瞬顔を曇らせて行列を呆然と見ていたアジア系の外国人の姿と、いつになく緊張気味のチューさんの後姿が目に焼き付いている。徴兵制も軍隊もない日本で、大勢の人が鉄砲の形をした彫刻を持ってパブリックな場所を歩くという行為には、多重な意味のすり合わせがあると思う。あの女子高生たちはなにに興味をひかれて参加したのか確かめるべきだったと悔やまれる。

■チュ-さんが案内状に書いていた短いメッセージを最後に記しておきたい。「都市空間は合理性に満ち過ぎ魅力あるクリスタルで遮蔽され命はツルツル滑っていく。榎 忠」


榎忠展
PLAY STATION YOU ARE ON DUTY
2000年10月29日(日)~11月11日(土)
(1)Gusto House
神戸市中央区楠町5-3-11
11:00~19:00(無休)入場無料
TEL 078-351-5529
(2)MOKUBA'S TAVERN
2000年11月3日(祝)~11月11日(土)
神戸市中央区下山手通3-1-9
14:00~22:00(無休)入場無料
TEL 078-391-2505


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運び手が鉄砲を受け取る様子を真剣なまなざしでずっと見ていた榎忠さん

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次々と運ばれてゆきます

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グストハウスの前は参加者たちでいっぱい

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商店街を通って、出発から約2時間。やっと第2会場のMOKUBA'S TAVERNに到着。


2000-10-29 at 04:52 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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