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2000/08/12

福岡道雄新作展

「この夏あなたは何をしましたか」  


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会場風景/企画展示室を2室使って近作28点を展観


■福岡道雄氏は、60歳になったのを機に務めていた大学も辞め、それからは毎日自宅にあるアトリエで制作しているという。樹脂(F.R.P.)に言葉を刻み付けていく作業がこの2年ほどは続いている。作品のタイトルにもなっている「何もすることがない」「僕達は本当に怯えなくてもいいのでしょうか」などの言葉を、電動彫刻刀を使って一字一字丁寧にかいてゆく。正確にはひっかいていると言ったほうが適切かもしれない。黒い地に白い文字が浮かび上がってくる。タテヨコが5~7mmくらいの文字は、離れたところからぼんやり見ていると、模様のように見える。

■性懲りもなく、作品一点一点の端から端まで読んでゆく。すると、ところどころに、その日のできごとや、疑問が書かれているのに遭遇する。「何もすることがない・10月(みみず)」には、途中、“…六月の終わりだったか 七月に入っていたか、あの時の君達の死について僕はいまだに気になっている…”というくだりがある。「君たち」というのはみみずのことなのだろうか。

■福岡氏は釣りを好んでいるようだ。そして、庭の草毟りも。雑草や花やみみず、池…など、静かにそういったものとの対話を続けながら、彼は生きることの意味を常に問いかけている。

■夏休みの宿題でも出たのだろう、小学生たちが次から次に展覧会をみにやってくる。全体としては重いテーマではあるが、見過ごしてしまいそうな自然との対話のなかから得る大きなものを感じさせる。彼らが体験できる日常とかけ離れているわけではない。真剣なまなざしで、顔を作品に近づけている子どもたちをみていると、最近頻繁に起こる少年による痛ましい事件のことが思い出された。

■日々の時間の集積のなかから出てきた作品をまえに、ふと、この夏、私は何をしていたのだろうか、という問いが頭を離れなくなった。あれもしたこれもした、あそこに行ったどこにも行った…。でもそれらにどれほどの意味があったのだろうか、と考えても答えがすぐ出てこない。この夏あなたはなにをしましたか…。

福岡道雄新作展
―僕達は本当に怯えなくてもいいのでしょうか
2000年8月12日(土)~10月1日(日)
伊丹市立美術館
伊丹市宮ノ前
10:00~17:00
入館料:一般700円、大高生350円、中小生100円
TEL0727-72-7447


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「何もすることがない・10月(みみず)」(1999年) 136.5×207.0cm

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「何をしていいのか分からない・7月(額紫陽花)」(1999年) 90.5×92.0c m、真ん中に薄い紫色の花がかかれていて、繰り返しかかれる“何をしていいのか分からない”という言葉の間に“オーストラリアが原発禁止を憲法に明記した……七月なかばになり額紫陽花の花も最後らしく元気がない、一本切って花びんに入れてやるとすぐ生々とする…”とある。

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「僕達は本当に怯えなくてもいいのでしょうか」(2000年)102.0×81.0×86.0(H)cm

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「僕達は本当に怯えなくてもいいのでしょうか」(2000年)棒の途中まで“…怯えなくて…”という言葉がせまってきている。必死でしがみついている人は、核やさまざまな世の中の脅威から逃げまどっているのだろうか。

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「僕達は本当に怯えなくてもいいのでしょうか」(2000年)何度も繰り返しかかれた「僕達は本当に怯えなくてもいいのでしょうか」という文字のあいだにプロペラ型の放射能を示すマークがある。

2000-08-12 at 02:11 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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