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2000/07/14
Vol.22 開発好明(Yoshiaki Kaihatsu)
開発くんは、「コミュニケーション」がテーマの作家だ。たとえば「365大作戦」では、自分と等身大の木箱を365個つくって全国の365人に自由に使ってもらい、1年間毎日それらを訪ね歩くプロジェクトを行って、BSの番組でも放映された。海水を人力で吸いあげたり、ハドソン川からはい上がってきたり、一見ばかばかしいパフォーマンスをするかと思えば、ホコリを使った美しいインスタレーションもつくる。'92年に「グレイ」を(曖昧さ、サラリーマンカラーなどから)コンセプトカラーにして以来、普段着もグレイ。それらはやってもやらなくてもいいことかもしれないが、やる意味は感じられる。
'98年秋から1年間、ACC(ASIAN CULUTURAL COUNCIL)の助成を受け滞在制作、今春はカナダで約1カ月の滞在制作を行い、現在は香港で展覧会と、現代版国際派・寅さんのようにどこにでも現れる日が来そうだ。 (写真は、2000年の「都市生活者のためのオアシス」におけるパフォーマンス)
ーーいま軌道に乗ってきているのは、「365(さんろくご)大作戦」に因るところが大きいと思うので、そこから聞いてみたいのですが。画廊を飛びだして、アートに関心のない人も巻き込む大プロジェクトをやり終えて、全部を燃やしたときはどんな気持ちだったの?
「記憶」という見えない彫刻が、参加者の心に残っているから、僕は淡々と燃やしていたかな。起伏はあったけど、それぞれの物語ができたし、こういう作品もありだな、と思った。「箱が来た年に、あの人とつきあっていたなあ」とか、作品が誰かの人生とコネクトして記憶に残ればいい。そのとき感じられなくても、経験が変わると見え方が変わることもある。子供のころはつまらなくて、いま見るといい映画ってあるでしょ。ギャラリーではそうはなりにくい。それに、置いた箱をどかしたときの、1年間のホコリの集積をつくる道具でもあったんだ。ホコリは、モノとして存在しないけど、イメージがわく。そういう美術になりにくいもので、何かつくりたかった。
ーーホコリは時間や記憶の集積?
いや、最初はホコリをまいてとった跡だった。原点は、引っ越しで家具を移動したときの畳の日焼け跡が、子供ながらにきれいだな、と思ったことなんだ。「IZUMIWAKU PROJECT」ではじめて教室のホコリを使って、その後、登満寿館(空き家)の作品で、家主だった登満寿さんがいた頃のホコリと、空き家だった5年間のホコリと僕らが入り込んでできたホコリで「時間」につながった。カナダでは、光と影のイメージができたと思う。
ーー'97年の個展でもホコリと空の作品ですね。このときのカタログに、「ある一瞬には一生続けていけそうな自信がみなぎり またある一瞬には漠然とした敗北感が身を包む。(中略)迷わないために 体全てで感じる作品をつくろう 体全てを使って」と書いているけれど、「365」を終えて自信はついてなかったの?
このときは、世間でいう30歳が区切りみたいなものを越えてしまった心境というか。いや、「オアシス展」もプレッシャーだったし、いまでも自信ないからね。お金も家もないし(実家が遠いので友人宅に居候)、彼女もいない(笑)。見えないものを形にしようとしているから、企画が通らないこともあるし。でも動いてブチあたるのは怖いけど、動かないとつくって発表する場が持てないから。チャンスは断らずに乗り切りたいし、来るのだけやってるといつか無くなるから、自分から発信もしていたい。やりたいことが現実化すると金銭的にはツラいけどね(笑)。自分たちの画廊FADs アートスペース も、美術をやるうえでの問題点を自分なりに解決したいから、3年というゴールを決めてやる。今はいっぱい湧くアイデアを、ドローイングみたいな感じでやっていって、何十年か後にひとつのスタイルにまとまっていけば、と。すでに「まとめろ」ってよくいわれるんだけど(笑)
ーーいろんな人に会うし、よく動くね。
基本的には人見知り(笑)。だから、'93年に「アート開発会社 ADF」という名前で、自分をプロデュースする役柄を自分に設定したんだ。そして、アーティストというのは、特別 ではないけどなりにくい職業で、なった以上そこでなにができるか考えた。そのとき、テクニックとかではなくて、僕には思ったことを実現していく行動力しかないな、と思ったんだ。
ーーパフォーマンスも、そういう気持ちから?
なにもないところから見えない何かをつくりあげる作業で、僕のパフォーマンスは「バカやってるな」といわれながらも、誰がやってもいいもの。この先、世界一周しながら出合う人を記録するとか、ふつうに働いているとムリだけど、アーティストであればやれるでしょ。それは、誰しもが持っているロマンだと思う。
ーーそうやってやり続けて、以前と変わってきたことはある?
前よりは、“自分が”って感じではなくて、“人も”という感じ。家族が登場したり。でも、あいかわらず「自分」にもこだわってるよ。僕自身の資料をためることで、なにか意味が出てくるんじゃないかと思って、毎日、レシート日記('92年から)と自分の顔を('94年から)撮り続けている。レシートは消費するものを、写 真は老いを表す。個を見つめることで、普遍的なものが見出せれば。
ーーなるほど。ところで「コミュニケーション」を前面 に出すと、自分が苦しくなることはないですか?
「365」のときは、最初胃が痛くて、コミュニケーションを遮断したいときは寝ちゃったりしてた。でも、あるとき、自分が中心ではなく、僕のアイデアが核としてズレなければ、あとの展開は投げて広がればいい、と思えて楽しくなったの。ノミは、自然界にいるときは何mも飛べるのに、箱に入れておくと箱を開けても、箱の高さでしか飛べなくなるんだって。365は、僕が画廊という箱で飛んでたのを広げて、自分が飛べる高さを伸ばした作品。ある程度高く飛べたから、いまはいろいろなことが、さほど苦じゃない。いまでもどんなに頑張っても虚しさは感じるんだけど、けっきょく“つくりたい”んだよね。常識的にはアートから遠い、価値のないと思われているものから、なにかをつくり出せたらと思う。
「都市生活者のためのオアシス」
2000年7月31日(月)まで
ZOOM
渋谷区渋谷3-6-7
(渋谷駅東口5分、六本木通り沿い「ZEXEL」1階) 9:00~18:00 土日休
TEL.03-3400-1551
*7/6~7/30香港(上環地区 アートスペース・パラサイト)でも展覧会中
今後の予定
・8/19仲間とともに国立にギャラリー「Fads(ファヅ)」をオープンし10月まで個展。
・8/25「越後妻有アートトリエンナーレ2000」
・秋の「ART-LINK谷中」に参加、2月にも個展。
・「LOVE」(世界で会った人に自国の言葉で「LOVE」といってもらいビデオに撮ってつなげる)プロジェクト続行中。
・「LING LONG HOTEL」(ある場所に泊まって次の人にカギを渡していく)プロジェクトの参加者募集中。
詳しくは、
http://www.pp.iij4u.or.jp/~kaihatsu/index.shtml
words:白坂ゆり
「365大作戦-FIRE WORK'S」1996年
「飛行木」1997年 自分の生まれた年に誕生した日本初の原子力発電所が廃炉し、そこのホコリを集めてつくったもの
「空」1997年
「回転」1999年(ニューヨーク)遠く見えない地点から手前まで167回でんぐり返ししたパフォーマンス
「都市生活者のためのオアシス」2000年 TVに泉が映った、フェイクファーの休憩所。こんなフェイクでもなごめてしまうというネガティブな意図もあり。
「空っぽ そして影」2000年 (バンフーセンター・カナダ)
「空っぽ そして影」2000年(バンフーセンター・カナダ)
開発好明(Yoshiaki Kaihatsu)
1966年 山梨県生まれ
1993年 多摩美術大学大学院 美術研究科卒業
個展
1990年 「それぞれの地球-1990年」
(ギャラリーなつか・東京)
1994年 「そぎ落ちた名前」
「地球は丸いと言い出した男」
(ギャラリーなつか・東京)
1992・
93・94年 「あなたの見つめる物は、私が見つめてほしい物ではない」
(ギャラリー仁・東京)
1995-96年 「365大作戦」(全国365会場)
1996年 「30-7月3日に生まれて」(ギャラリーなつか・東京)
1997年 「GRAY-The Stadust Memory・開発の場合」(ギャラリーなつか・東京)
1999年 「彼女」(スタジオ ニューヨーク)
グループ展
1993・94・
97年 「HIGH RELAX EXHIBITION 1、2、3」(銀座5~8丁目)
1994・96年 「IZUMIWAKU PROJECT」(和泉中学校・東京)
1996年 「On Camp/Off Base」(東京ビッグサイト・東京)
1996年 「ミュージアム・シティー・天神」(福岡市天神区一帯・福岡)
1998年 「アート・サロン・ラボ'98」(登満寿館・東京)
1999年 「[ティー]アジア・ソサエティー」(ニューヨーク)
ほか多数
2000-07-14 at 10:19 午後 in アーティスト・ヴォイス | Permalink
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