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2000/07/13

井上尚子展  Marble Project Vol.2 Marble Lovers-on home ground

「マーブルチョコはママの味?」


art112_01_1第1室、ビデオインスタレーションより。マーブルチョコの海

■真っ暗な展示室が透明のビニールカーテンで2室に分けられている。最初の部屋では、マーブルチョコレートの大群がハンマーで叩き割られ、手にからみつきどろどろに溶解していく映像が、エンドレスに映し出されていた。ひとつひとつが、個人のカラーや皮膚のようでもあり、殻を破がされていくようでもある。画面は次第にモノクロになり、色を失う。人が大きなうねりに飲み込まれるようでもあり、土に還っていくようでもある。チャリチャリ投げ入れられる音、叩き割る音など、想像を広げる音響が重なる。(音響制作は柴山拓郎)

■隣の展示室へは、画面を開けて移動する。まるで映像の中に吸い込まれるように。床一面に敷かれたマーブルチョコの上を、透明のバススリッパで踏んで歩く。なかなか割れない。そして匂いが強烈。お菓子の丸い筒をスポッと開けたときは、おいしそうな香りなのに。甘い誘惑も大量になるとやはり毒だ。無邪気に楽しみながら思う。

■この展覧会は、「生と死」をテーマに制作してきた、'74年生まれの井上尚子が、マーブルチョコレートをモチーフに「家族」や「母」を表現するシリーズの第2弾。前回は、机に布をかけてチョコの画像を映し、食卓や棺桶を連想させるインスタレーションだったという。今回のビニールの部屋は、胎盤をイメージした母体空間。涼しげで安らぐが、圧迫感もある。

■私たちは、母から生まれ、家族を構成する一員となり、母なる大地へ還る。そのあたたかさは、家族は個人の集まりであるという厳しさの上に成り立つ。母を女として、父を男として、その生涯を思うときもある。個人だからエゴもぶつかり合い、でも家族だから寄り添おうともする。破壊と再生の繰り返しだ。今回は、彼女自身の家族のドキュメントはあまり聞かなかった。「誰もが知っている素材を導入として、異なる経験値を広げたい」という彼女の作品は、誰にも還元されると思えたからだ。

「井上尚子展  Marble Project Vol.2 Marble Lovers-on home ground」
2000年7月13日(木)〜8月6日(日)
川口現代美術館スタジオ 埼玉県川口市芝新町7-20 ローザ第2ビル
(京浜東北線蕨駅東口より直進、青木信用金庫右折、あおしん駐車場前)
月火水休
木日12:00〜17:30(金土曜は〜20:00)
300円
TEL.048(261)7878

今後の予定
Vol.3 11/21〜12/2 ギャラリー ル・デコ(渋谷)
'97年に制作した鉄の棺桶・箱のインスタレーションは、女子美術大学相模原校舎8号館前庭に設置され、錆びて風化した状態で見られる。

words:白坂ゆり

art112_01_2赤いチョコが大きくなっていく。胎児のよう

art112_01_3溶けてどろどろになっていく。生産の工程を逆に追い、元をたどる感じだという

art112_01_4
手で錬られたチョコ。幼い頃、砂でつくった城にわざわざ水を入れ、手を入れてぐちゃぐちゃにしたことを思い出す

art112_01_5第2室、作家の井上尚子さん

art112_01_6チョコを踏みしめてみよう。五感で感じる展示

2000-07-13 at 11:16 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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コメント

懐かしく、素敵な紹介を有難うございました。
この頃、大学院を修了して、初めての個展でありました。
いろいろな方からアドバイスを頂き、この展覧会は一生の思い出です。
今年9月から1年程、文化庁在外研修でニューヨークへ行って参ります。
また皆様に楽しい空間を体験して頂きたいので、沢山吸収して帰ってきたいと思っております。
今後とも宜しく御願い致します。

取り急ぎ

井上尚子

投稿情報: 井上尚子 | 2005/06/30 14:26:03

いやあ、懐かしい〜。もう5年前ですよ。
川口現代美術館スタジオもおもしろかったね。
ニューヨークいいですね。ご活躍でなによりです。

投稿情報: shirasaka | 2005/07/01 1:34:04