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2000/05/20

春木麻衣子展

「目カメラをのぞく」


art109_01_1会場内は真っ暗で、懐中電灯が置いてある。手前の写真にかすかな光が。


■言葉でうまく伝えられないとき、脳に映った画像を目から投影して見せられればいいのに、と笑ったことがある。目カメラ。『ドラえもん』にあったかな? 私が見ている空のあのへんとか、路地のすきまとか、水門の下とか、目カメラがあったらその空気感も伝わるだろうか。ふたりで画面 に映したらきっと違うところを見ているんだろう。

■私はいつも作品を通して、作家の目カメラをのぞかせてもらってると思っている。切り取り方には、作家自身のありようも潜んでいたりする。今回の春木さんの作品にも共感し、驚かせられもした。

■階段を降りると、はじめの会場は真っ暗だった。目が慣れてきてもなかなか見えない。懐中電灯で光を当てると、そこには線路に反射した光の線がすうーっと伸びていた。ちなみに一巡して再び見にいくと、どんなに暗くても今度は見えてしまうのだった。

■次の部屋の扉を開けると、白い空間に透明のシートが4枚吊り下げられていた。シートには、どこかで見た石段や道やマンホールのふたなどが転写 されている。間を歩くとかすかな風でシートが揺れる。ブルーインクを水に落としたときにひたひたと広がる波のよう。歩いている間は、ざわざわと音がしているようだった。静かに見ているとぴたっと止まる。子供のときに林のなかで遊んだことを思い出す。誰もが心の奥にもつ郷愁を誘う風景だ。

■春木さんは、また、すきまの写真も数多く撮っている。ビルとビルの間にある足かけやパイプような、光のあたらない存在に、まさに光をあてている。光は、そこにそれがあることを実証してくれる。驚いたのは、さきほどの線路をはじめすべてが昼間の写 真だということ。もうそこしか見えてないから周りは真っ暗なんだそうだ。線路の前の柵や、林の手前の畑は黒のなかに消えている。目カメラ・ビームはかなり限定部分一直線らしい。

■なぜ写真なのかを聞くと、「そこがそう見えた、ということを写真を通 してはじめて実感できるから」と答えた。絵画は頭で考えた部分が侵入するから、見たことを確かめる手段としては信用できないという。見たときの印象を含めて絵画を選ぶ作家もいれば、春木さんのような作家もいて、作家の目カメラにやはり興味は尽きない。

春木麻衣子展
2000年5月20日(土)〜6月10日(土)
なるせ美術座
東京都町田市南成瀬3-1-15
(JR横浜線成瀬駅北口、町田街道を左へ、「Fiore」先、徒歩6分)
10:30〜18:00(金曜〜20:00) 
日休 無料
TEL.042(723)2988

words:白坂ゆり

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「線路」(以下すべて2000年)。近づいてみると、線路の光のラインが……。ちなみに周りの黒は青の集積なんだそうだ

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こちらの白い部屋には、シートが4枚吊り下げられている

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「UNTITLED」(部分)。マンホールのふた。この下の見えない部分をよく想像したものだ

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「UNTITLED」(部分)。左に目線を移すと、道路の模様が細胞のようになっている

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「UNTITLED」(部分)

2000-05-20 at 09:14 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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