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2000/05/13

旅籠町町家プロジェクト

「去りゆく家に吹いた風」


art108_01_1家の外観 ひっきりなしに人は通るが……。


■色と音がせわしない秋葉原の電気街のなかに、その家はあった。今年2月、家主の佐藤良子(よしこ)さんが95歳で亡くなり、6月に取り壊される、周辺で最後の民家だ。旅籠町(はたご)町は江戸時代、薩摩座という小劇場を中心に華やぎ、明治以降、昭和40年代に家電の街に変わるまで、銭湯も商店もある閑静な住宅街だったそうだ。良子さんの姪の 浅井真理子さんを中心に、井出創太郎さん、志水児王さん、吉田重信さんの4作家が、この家の空間で展示を行った。

■テーマは「旅籠町最後の町家に4つの思考の風が吹く」。家のもつ時間と記憶だけでは なく、それぞれが家人の精神と交わろうとしていた。良子さんの父母は共産主義者をかくまったり、学生を援助し、良子さんも芸術や文化を尊び、若い人との交流を楽しんだ人だったそうだ。

■日めくりは良子さんが最後にめくった日付のまま。浅井さんの薬のカプセルでできた家の作品は、家人が配置した家具や調度品の数カ所に仲間入りしていた。箪笥や暖簾、人形ケースなどから、良子さんが生活のなかで小さな「美」を楽しんでいたことがしのばれる。浅井さんは、この家に鏡が多いことが気になり、プロジェクターを使って台所のふきんに映像を写すなどの仕掛けも行っていた。

■2階に上がると、襖にはもとからそこにあったような井出さんのエッチング。この家には額装された書なども多く、志水さんはそこから人物を感じとり、昼間の星座を撮影した写真を飾っていた。

■吉田さんは、良子さんのワンピースを使った。その柄の選びかたから、良子さんの人柄が想像される。吉田さんは虹のインスタレーションで知られるが、この窓のすりガラスには、外の派手な色彩が虹色っぽくぼやけて映っていた。これは作品ではないけれど、呼応してしまったのかな?

■物干し場に出ると、半年後の太陽の位置を示す志水さんの赤道儀の作品があった。家が消えても、心は未来へ受け継がれるのか。確かにここが電気店のビルになっても、空は変わらない。この家にいくつかあった止まった時計は何を封印し、空き箱には何を入れようとしていたのか。引っ越しが多く、昔ながらの家に安堵を覚える私は、この騒音のなかで家の何を守っていたのか聞いてみたかった。

旅籠町町家プロジェクト
2000年5月13日(土)〜28日(日)
佐藤良子宅
東京都千代田区外神田1-9-8
(秋葉原駅御徒町口出て、中央通り渡る。SEGAゲームセンターの左脇を入り、ひとつめの 角のパチンコ屋を右折、牛丼屋の近く)
11:00〜19:00 日月休 入場無料
TEL.03(3251)6287会期中のみ

井出創太郎作品は、こちらと合わせて見ることをオススメ。
〜6月24日(土)「Each Artist,Each Moment 2000」
ギャラリーGAN 11:00〜19:00(土13:00〜) 日休
TEL03(3573)6555

words:白坂ゆり

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1階。下の棚の、黒い家のような箱のようなものが作品。
浅井真理子「無題(モシカイジュウニオイカケラレタラドコニカクレル?)」2000年
旦那さんが書を書いていた らしく、筆がいっぱい。

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2階。井出創太郎
「piacer d'amor bush『襖』」2000年

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2階。志水児王「constellations」2000年

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1階。吉田重信「無題」2000年
ワンピースの足元には水の入ったコップ

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物干し場。志水児王「262800minfuture≒8min3seconds before」2000年

2000-05-13 at 08:42 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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