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2000/04/08

前川知美:新作絵画展

「ジェット・ポエジー」


art107_01_1「P-3C」(以下すべて2000年) 鳥のような……


■前川知美は、女性でありながら戦闘機を描く。でも、小松崎茂のようなプラモデル画の 世界とは違う。たとえていえば、格闘技を見るときに、会場の雰囲気ごとリングで戦う姿を引きで見るように、彼女は戦闘機を大きな空のなかに小さく描く。男ならディテールを描き込むこ とにこだわりそうだが、彼女は自然のなかに戦闘機のいる風景を描く。戦闘機の勇姿を、 憧れと母性的な視線で眺めているような気配を感じる。

■'73年名古屋生まれ、女子校育ちの彼女が、戦闘機のような男の子カルチャーに興味を もったのは大学生以降なのだそう(現在は基地のある厚木近くに在住)。でも、たとえばバイク を見て男の人が「生産がどこで、排気量が云々」などと語り出すと、知りたいけど入れない疎 外感を味わったという。そう、スニーカーとかギターとか、男のコレクターってなんであ あ、データをうれしそうに話すのダ?

■彼女には、そんな入りたいけど入れない世界への憧れと、「自分には違うカッコよさが 見える!」という自負があるらしい。確かに、絵を見るとジェット音やヘリコプターの巻 き起こす風の音も聞こえてきそうだ。勇壮で、さびしげで……。無機質な金属のかたまり が、戦士のように表情をもって現れてくる。

■そして彼女は、観客に「その風景を見た場所を意識させたい」のだという。たとえば、 飛行機を見つけたとき、私たちは飛行機にピントが合っていて、視界のフレーム圏内にあ りながら手前のビルなどはうろ覚えだったりする。そうした確かにあったのに見ていない ものの“存在”を描き出す。また、「4:30」「14:00」など時間を示すタイトルの作品から は、その風景に出合ったシャッターチャンスのような興奮を、電線や飛行機のテールラン プを描いた絵からは、その瞬間の空気の記憶も含めて描きたいのかなと思った。そんな写 真には写せない複雑さを、彼女は絵画で再現しようとしている。

■さらに、画面を分割した絵では、部屋や車窓から眺めた風景ともとれるし、別 の世界へ 飛び出すような心象風景ともとれる。絵画の冒険はまだまだ続きそう。やさしくて勇敢な絵画が現れた。

前川知美:新作絵画展
2000年4月8日(土)〜5月20日(土)
オオタファインアーツ
東京都渋谷区恵比寿2-8-11
(恵比寿駅西口商店街抜け五叉路へ、「たつや」の先右折)
11:00〜19:00 日月休 無料
TEL.03-3780-0911

*今回、2カ月で描けといわれて13点中新作が11点というジェットな勢いの前川だが、そ の理由は同じ「マエトモ」だから同時開催にしようというオーナー同志の策略のせい。近 くのハヤカワマサタカギャラリーで開催中の「前沢知子展」もオススメです。
TEL.03-5457-7991

words:白坂ゆり

art107_01_2飛行機だ(「P-3C」より)

art107_01_3「UH-60J」ヘリコプター。ヘリのかたちって虫っぽいな。手前は走り去るトラックだ そう。

art107_01_4「F/A-18」脇を見ると、グレーの下に蛍光色や鮮やかな色が塗られているのがわかる

art107_01_5「F15-DJ」分割線に、ピンクなどの蛍光色で光のプリズムのようなものが描かれてい る

art107_01_6展示風景 中央には白いベンチもあり

2000-04-08 at 04:29 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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