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2000/04/15

伊藤存「山並ハイウェー」展

「山は想像の海をはるかに超えて」  


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会場風景


■伊藤存(いとう・ぞん)は、これまでグループ展などで発表したことはあるが、個 展を開くのははじめてだ。3年ほど前、彼が京都市立芸大を卒業する年に大学の制作 展に出していた作品をよく覚えている。他の学生たちが、大きな作品を展示している 横に、なにげなく小さな展示台のうえに置いてあったブタのぬり絵と、フェイクファ ーがついた本のかたちの作品。具体的なストーリーはないが、ページをめくるたびに 、どんどん見ているこちら側のイマジネーションを働かせてくれる。

■2月のはじめに少し彼と話しをした。あまり多く語らないが、やりたいことははっ きりとしていそうだったのでこの展覧会が楽しみだった。 「衝突やストレスを楽しみに変えるものとして“想像”があって、想像という慣習の 馴れによって消えかけている作業をよびもどすきっかけとして自分の作る物が働いて ほしい」 彼自身のこの発言を引用するのが、作品を一番わかりやすくフォローする言葉ではな いかと思う。

■彼の作品には余計な説明的な部分がない。エクスキューズがたくさんある作品は、 見ていてどうも“つかえる”ものがある。開き直るのではなく、ごくストレートに、いくつかの鍵(ヒント)を並べてくれている。どんなふうにも想像できる。普段、考 えもしないことをふと思ったり、思考が切り替わったり…。

■「手芸」という趣味的な範疇で語られがちな布に刺繍という技法を使ったことにも 意表をつかれた。以前から、一部に刺繍を使うことはあったが、全体を刺繍でつくり あげてしまった。縫い取るというのは不思議な行為だ。糸を抜けば、何もなくなる。「絵の具で塗ったら、失敗したとき面 倒やし」 と言っていたのを思い出した。でも、そんなことは理由ではないはずだ。彼はいつも 少しずつ他人をはぐらかすような答え方をする。でも、本質はちゃんとその向う側に 用意されている。これからの活動がマジで楽しみだ。

伊藤存「山並ハイウェー」
2000年4月15日(土)~29日(土)
Kodama
大阪市中央区備後町4丁目
TEL.06-4707-8872

words:原久子

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案内のポストカードにもなっていた「山並ハイウェー」15×21cm、紺の布に刺 繍がほどこされている

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「浅瀬の旅行」90×135cm、水面から上と水面下、平面上に構成されたさまざま

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「猫くらいの大きさのもの」120×85cm、さまざまなものが同じ大きさに並列さ

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「まさつの楽しみ」88×88cm、黒っぽい部分は手に握った魚をウサギに与えよ うとしている構図

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「横向き山並」88×63cm、壁に立て掛けられた床置きのこの作品は、両サイド から山並がたちあらわれ、宙に根をはやした大木と太陽がある

2000-04-15 at 04:50 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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