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2000/02/04

岡田裕子展−戯曲「紙と手、恋と謎」について。

「絶対のない恋愛ゲーム」


art100_01「シーン1」(以下すべて制作年は2000年。カラーコピー、リキテックス)

■椎名林檎は「ギブス」という歌のなかで「あなたはすぐに絶対などと云う。あたしは何時も其れを厭がるの。だって冷めてしまっちゃえば其れすら嘘になるじゃない」と歌う。'70年生まれの岡田裕子さんは、「恋愛」をモチーフにしているアーティストだ。ふたりとも正直でヒリヒリと痛く、闘っているけどユーモアもある。林檎の歌は“歌謡グランジ”と呼ばれるが(グランジとは歪んだギターの、ノイジーで喪失感漂う'90年代アメリカのパンクロック)、岡田さんの作品にもそんな和製ロックの匂いがする。

■本展は、彼女が創作した架空の戯曲「紙と手、恋と謎」に基づき、写真やカラーコピーを加工し、筆を加えた絵画を、舞台の場面のように構成している。登場人物は3組の男女。死んだ振りをしていて本当に死んでしまったH子と彼女を溺愛していた兄のY男、出番が来ても舞台に立てない舞台恐怖症のE子と出番がないのに舞台に飛び出す見られたがりのO太、からみつく互いの手を重いと感じつつ踊るしかない恋人のM氏とS嬢。

■Y男は、H子の死の謎を探るため、降り注ぐH子の手紙やメモを一心に読む。「三鷹駅入口脇、ポスターのとこ」「考えすぎないで」「タワシ、こんにゃく、しめじ」……。恋愛も、用が済めば捨ててしまう買い物メモもH子には同程度だったかもしれない。彼らはみな自分しか見えていない。それを見る観客は素を引き出される。女性はおもしろがり、男性にはうなだれて帰る人もいるとか。

■「ギリシャ神話みたいになってしまった」と岡田さんはいうが、恋愛は永遠の謎だ。「悲劇を書いたのに、喜劇にもなってしまった」点も真実をついている。現実に女の立ち直り方は喜劇に近いし、悲しすぎて笑っちゃうこともある。彼女は恋愛のカタチを借りて、人間関係を描いていると思う。恋愛には、痛み、悲しみ、虚無、恐怖、強さ、優しさ、自由、束縛、男女や個の違い……、人が生きるすべての問いや時代性が詰まっている。だから人は人をギュッとするのかも。音楽も映画も演劇も恋愛モノが多いのに、日本の現代アートに少ないのはナゼなんだろう?

岡田裕子展−戯曲「紙と手、恋と謎」について。
2000年2月4日(金)〜3月4日(土)
ミヅマアートギャラリー
東京都渋谷区神宮前 5-46-13ツインSビル1F
(表参道駅B2出口より青山通り沿い「無印良品」右折、直進)
11:00〜19:00
日月祝休 無料
TEL.03(3499)0226

words:白坂ゆり

art100_02「紙を残して死んだH子、その兄Y男」


art100_03紙片にはH子が残した言葉が山のように記されている。いまどきを感じさせるメールらしき語調も。


art100_04「或る恋人M氏とS嬢」束縛し合う互いの手が舞台衣装。


art100_05「舞台恐怖症の女E子と露出症の男O太」O太はE子に迫り……。身体にはモザイク。


art100_06キュートな岡田裕子(ひろこ)さん。ACCという奨学金制度で、3月からNYで滞在制作。

2000-02-04 at 09:31 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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