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2000/01/18

MOTアニュアル2000 低温火傷

「続きは、私たちがつくろうか」


art102_01中村政人「QSC+mV」(Quality・Service・Clean+m・Value)1998-1999年 体感してはじめてわかる。


■「ミレニアム」という言葉は「カリスマ」ぐらい胡散クサい。カウントダウンしたって、何も変わらない。あたりまえだ。「低温火傷」展を見ても、その先の答えはなかった。でも、現状にひとりで向き合えなければ、何も変わらないという、“あたりまえの強さ”を投げかけている。誰も変えてはくれないし、誰のせいでもないことを。

■日本そして東京を立脚点とし、新しい美術の成果を毎年グループ展形式で紹介する「MOTアニュアル」シリーズ第2弾。今年は、'60年代末の高度経済成長期から現在までを、熱いとすら感じない熱に身を置くうちにじわじわと痛みを帯びる“低温火傷”の時代ととらえ、火傷に至った過程を解きほぐそうという企画。企画した学芸員、'69年生まれの岡村恵子さんに「自分が生きてきた時間を見つめ直すことでもあった」と聞けば、30代の私の時間とも重なるなと思える。出品は平川典俊、高島陽子、ホンマタカシ、中村政人、守章、木村太陽の6作家。

■'63年生まれの中村政人さんのマクドナルドやコンビニ看板の光には安心感を覚え、日常を新たな視点で振り返ることができる'62年生まれのホンマタカシさんの郊外を撮った写真は、ありのままを映し出している。どちらの作品も洗練され、肯定から始まるポジティブさを含んでいる。会場の最後にはノートが置いてあり、若い観客が中心に感想を書いているのだが、ふたりとも人気があるのも頷ける。

■そのなかで「汚いモノをなぜ見なくちゃならないのか」賛否両論を巻き起こしているのが、'70年生まれの木村太陽さんだ。“お漏らしオジさん”が並んだ部屋に入れない人は、その隣の部屋の隅にあるビデオも見ずに帰ることになる。でも、シャツが見えた背中や擦り切れそうなジャージのお尻、落ちているサンダルなどを見ていると、ホントに汚いものとは思えない。ビデオでは、口の中にイヤホンを詰め込むなど、生理的な機能をズラしながら「生」の実感を確かめるようなパフォーマンスが続く。壁のドローイングでは、ネガポジに揺れまくる彼自身が見える。

■岡村さんの言葉を借りれば「美術館という社会への挑戦での居心地の悪さが、散らかしてみたり隅っこにイジケてみたり、必然的にこういう展示にさせた」ようだ。この七転八倒ぶりが、この展覧会を「自分たちのことだ」と引きつけるものにしている。美術が自分たちの問題だと思えれば、つくる側だけではなく、見る側も「美術が必要だ」と言えるようになる。ひいては東京都現代美術館が必要かどうかも、都政レベルの話だけではなく、自分たちの問題として考えられるのでは?

■ノートの中には、「今さら言わずもがな」という人もいた。来年のアニュアルを待つ間に、さらに現実は進む。だから、1室でいいから現代アーティストの個展を、日常的に開いてほしい。ここからギャラリーの存在を知り、多くの作家に出合ったら、もっと美術が、自分を動かす手だてになるってことを知らせることもできるはずだ。この展覧会に何かを求めて来た人が、「美術にも何もなかったな」と心に穴が空いたまま帰るのはしのびない。

MOTアニュアル2000 低温火傷
2000年1月18日(火)〜3月26日(日)
東京都現代美術館
東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)
(東西線木場駅または都営新宿線菊川駅より徒歩15分)
10:00〜18:00(金〜21:00、入館は30分前まで)
月・3/21休(3/20開館)
一般500円、高中小250円
TEL.03(5245)4111

words:白坂ゆり

art102_02ホンマタカシ「少年-1、東京都多摩市」1995-98年、「少女-1」「少年-2」1999年。子供たちにとってもホンマさんにとっても“これも自分の故郷”。

art102_03木村太陽「ルーティン」1998-2000年。ポケットにささったコンビニの箸などに、視線の鋭さと温かさを感じる。

art102_04端には、ワンカップ大関やティッシュなどが溜まっている。清掃された駅構内とか公園でも、隅で見ることあるよね。見ないようにしているだけで。

art102_05「ドローイングとしてのビデオ」1997年 カレーライスで顔を洗う。笑えるけど、痛くて熱くて悲しい。

art102_06「おさらい」2000年 猫にぬいぐるみを被せてみたり、袖が引っかかって思ったことなど、生活のなかで考えたことが描かれている。こうして作品が生まれてるんだなぁ。

2000-01-18 at 11:25 午前 in 展覧会レポート | Permalink

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