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2000/01/10

河田政樹展−路地を吹き抜け

「ART in YOU」


art96_k01「柱」。1999年1〜3月「ひそやかなラディカリズム」展(東京都現代美術館)より。


■最近、空を見上げたり、机の上に文房具と時計が偶然きれいな配色で置かれていたり、そんな些細な発見にほんわりと幸せになれる。ちょっと前まで、見ようとしないと見えない作品ってアートの約束事でのみ成立する、たとえば失業中のオジさんにそれを言ってどうなるのか、ギリギリのところでアートが社会にどれだけ効くのかって、疑問に思っていた。でも、最近の私はフリーランスというやや不安定な生活の中で、アート作品から教わったことが、いつのまにか勇気に変わっていることがある。

■'73年生まれの河田さんの作品をはじめて見たのは、東京都現代美術館で行われた「ひそやかなラディカリズム」展。重ねられたコップの中をのぞくと、美しい色の世界があって高揚した。よくあるそのコップは、私には、毎日ハミガキに使っているコップだった。でもこの時は、あと2点の作品とで空間ができていることに気づかなかった。

■河田さんの作品は常に三方に位置し、あと一方は観客が立ってはじめて成り立つことに気づいたのは、昨年末のフタバ画廊での個展でだ(遅いか、トホホ)。入口を入って右手には黄色いアクリルで描かれた山と雲のドローイング、奥には手作りの棚、左手には小さなポラロイドフィルム。蛍光灯、赤い爪をした女性の白い手など、日常のふとした瞬間に気持ちを満たすようなものが写っていた。三方に明確な共通点はない。展覧会のコンセプトを決めてそこに合わせて作品をつくるのではなく、日々の中から生まれたものたち。

■そして今回。二方の壁に、フレームに入った言葉の作品、床には中味の見えないドローイングとポラロイドの束。間に立つと言葉は見えないから、これはヒントではない。でも、想像がわき上がるような空気の中に身を浸すと楽しい。河田さんは、「これは“美術”という名でなくてもいい。人がものに関わり合おうとして見たときの、その間にあるものを、あえて呼べるなら“美術”と呼びたい」という。美術史でいう「ミニマルアート」でも「もの派」でもない。彼自身が生活の中で真摯にものを見つめようとし、これらが生まれた、それでいいと思う。

河田政樹展「路地を吹き抜け」
2000年1月10日(月)〜22日(土)
モリスギャラリー
東京都中央区銀座7-10-8第五太陽ビル1F
(三原通り沿い)
TEL.03(3573)5328
11:00〜19:00(1/22〜17:30)
日休 無料

words:白坂ゆり

art96_k021999年11月29日〜12月5日に行われた「四つ葉のクローバー」展(フタバ画廊)より。奥の棚の作品名は「役立たず」。だけど四つ葉のクローバーは探さないと見つからないよね。


art96_k03今回の展示風景。一見とっかかりがないが……。


art96_k04小さな文字で言葉が書いてあり、離れるとほとんど見えない。「優しい目をした通り魔は、光を浴びて風になります。刃と化したその声で自らをも切り刻み、紙片の間を吹き抜けます。」もうひとつは「ふと吐いた溜息が、今、他人に変わっていきました。風になり、音になり、言葉になり、鏡を擦り抜け震えています。」


art96_k05ドローイングとポラロイドフィルムの束。そこに何が描いてあるか想像してもいい。でも見ているうちに、それさえ気にならなくなってくる。

2000-01-10 at 08:14 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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