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1999/12/11

「美育――創造と継承」展

子供と美術教育 


art99_01「美育」展の展示室入口


■芦屋には「童美」展という50年の歴史をもつ子どもを対象とした公募展がある。ここに出品されている作品はかなり個性的である。芦屋ならではだが、元具体メンバーが審査委員をつとめている。それに、絵画展という枠はついていないので、いろんなものが出てくる。この公募にも入選の傾向と対策があるのか、いわゆる風景や静物を模したものなど、具体的なイメージが描かれたものがあまりない。「童美」展のほかにそれを支えた人々がかかわった「きりん」という子どもの詩の雑誌がある。「美育ーー創造と継承」展は、これらの動向をつくってきた人々のドキュメント展ともいえる。

■「童美」展に数多くの子どもたちの作品を送り込んでいる幼稚園園長の福井氏、小学校5年にして天才少女と呼ばれ、当時、雑誌「具体2号」(1955年)で特集まで組まれた衣斐美地子氏、そして「美術と教育」というインタビュー集を二冊まとめている美術家の中村政人氏によるシンポジウムが開かれた。

■それぞれ、まったく立場も違えば、世代も異なる。「子どものなかに葛藤を生み出し、子ども自身の力で創造力を高めていく」そんな福井氏の教育方針。「指導者の先駆的な思いを継承していたと思う。絵のなかで絵をつくっているのではなかった」と衣斐氏からは当時を振り返って語られた。そして、中村氏は雑誌「美術手帖」に掲載された過去50年分の美術研究所、美大予備校の広告をスライドで見せながら、美大入試によってつくられた日本における独特の歪んだ美術教育を語ってくれた。

■どの話しもとても興味深いものだった。最後に、各々に子をもつ親として、自分の子どもへの教育について質問がなされたとき、「自分の子どものこととなると・・・」と三人ともが苦笑いしたのが印象に残った。

■三人とも、それぞれが「環境」ということばが頻繁に使っていた。少しずつ違った内容を含んでいたと思うが、何を選ぶのかは子どもの主体性に任せるべきではあるが、やはり環境をつくってあげられるのは大人だろう。教育というのはもしかしたら環境づくりのことかもしれない。われわれは、様々な意味で「よりよい環境づくり」をしていかねばならないと感じた。

「美育――創造と継承」展
1999年12月11日~2000年2月13日
芦屋市立美術博物館
(芦屋市伊勢町12-25 tel.0797-38-5432)

words:原久子

art99_02シンポジウム風景(左から)中村、衣斐、福井

art99_03展示室風景/ブースのモニターから関係者の肉声が聞こえてくる。子どもの詩の雑誌「きりん」など資料を読めるようになっている。

art99_04「きりん」のバックナンバーが展示されている

art99_05熱心に資料を読む人

1999-12-11 at 09:23 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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