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1999/11/23

Vol.16 スメリー (smelly)

愛と真実のダンサー・スメリー 誕生秘話

eye17_smelly

アートと笑いの境界線上で踊る自称「愛と真実のダンサー」スメリー。 本名・岡崎太威。アートをベースに、お笑い、音楽、演劇など多ジャンルを混合かつ横断する新型パフォーマー。細身のブラックスーツにアフロのカツラ、顔を白塗りにした風貌で登場し、マイケル・ジャクソンのヒット曲にのせて「サザエさん」「スキスキアッコちゃん」などを歌って踊る定番ナンバーをはじめ、日々の生活のなかで思った言葉を紙に書いてつぎつぎめくっていく「スメリーの主張」、紙吹雪を口から垂らした粘着質の唾でキャッチする「スメリーキャッチ」など、世の中のナンセンスと人生のせつなさを絶妙につく芸を披露。テレビ東京「たけしの誰でもピカソ」に不定期に 登場するほか、パフォーマンス・フェス「ニパフ」や吉本のお笑いイヴェント、演劇、ライヴなどに出没中。素顔の岡崎太威は、1970年生まれのアーティスト。東京芸術大学大学院彫刻科在籍中にアーティストの土屋公雄さんのアシスタントも経験するが、ソニー・アート・アーティスト・オーディション'94特別 奨励賞受賞をきっかけにパフォーマンスの世界に。スメリーとしての活動以外にも、本名の岡崎太威名義で顔にはめて表情をゆがませる装置「ビューティ・メイカー」やビ デオの制作、『ノウノウハウ』のマンガ連載 など活動は幅広い。スメリーの今後の予定は、 12/5渋谷エッグマンの「WARAWA NIGHT」出演、来年3月の青山モルフェでのイヴェント企画 、『BT/美術手帖』1月号からの連載執筆など。スペース・シャワーTV「マタハリ」に もレギュラー出演中。

●岡崎さんの扮する「スメリー」も、TVやライヴなどの出演がだいぶ増えてきましたね。このキャラクターが誕生したきっかけを、まず話してもらえますか?
■1994年にソニーのアート・アーティスト・オーディションに、友だちとふたりで応募したんです。ちょうど明和電機がデビューしたつぎの第3回目で、アートの本場ニューヨークに行きたいというのが動機でした。一等賞がソニーと契約を結べて、二等賞はニューヨーク武者修行の旅に行かせてもらえたから。そうしたら、書類審査と作品審査にとおっちゃって、三次審査でなにかパフォーマンスをやらなくちゃいけなくなったときに、宴会を思い出したんです。芸自体は替え歌でばかばかしいものだったんですが、応募したときはシリアスなスタイルだったので(笑)そこに宴会芸をはめ込んだかたちでお墓のオブジェの前で「シャボン玉」の歌を歌ったんです。そしたら、それがうけて、めでたく準グランプリを受賞、翌春の3か月間ニューヨークに行きました。

●ニューヨークではなにをしていたんですか。
■オノヨーコとか、すごい人たちが出品するパフォーマンスの歴史の展覧会に参加して、作品展示とパフォーマンスをしました。もともと僕は作品をつくりたくてニューヨークに行ったんだけど、向こうの人にパフォーマンスが面白いからいろいろ見ろって勧められて、ローリー・アンダーソンや若いアーティストのパフォーマンスをたくさん見たんです。日本のパフォーマンスって、「行為」とか言っちゃったり「感覚」だけだったり、わかりずらいし、退屈なものばっかりで苦手だったんですけど、そうじゃないエンジョイできてしかも内容もある舞台があるのを知ってすごく刺激された。それで帰国してからスメリーのパフォーマンスをやりはじめたんです。それまでの僕は、現代美術大好き人間で、アタマがかたかったけれど、自分のパフォーマンスがすごくうけたことで、「なんだ、楽しいことをやればいいんじゃん」って思って。

●ところで、どうしてマイケル・ジャクソンなんですか?
■ちょうど大学院の修了制作の時期にビデオをつくったんです。マイケル・ジャクソンのアルバム「ヒストリー」が出たときで、東京ドームの前にキャンペーン用の銅像が立てられていて、その前でスメリーの格好で「サザエさん」の歌を歌ったりしたんです(笑)。マイケルってセンス悪いし、カッコ悪いじゃないですか。よく、マイケルは自分を改造したサイボーグだとかいわれるけど、それは全然わかってない解釈なんですよ。むしろ彼は、人間的、精神的に弱いから、自分の欲望に忠実に実行してしまうんです。普通だったら整形や顔の脱色なんて、周りの目を気にして踏みとどまるのに、彼はエゴのままに突き進んでクリーチュアになってしまった。それはとてもせつないし、人間的だと思いますね。生き様が見えるすごいアーティストだなあと。ジム・モリソンがドラッグで死んでも、結局カッコいいでしょう。僕も「スメリー」というキャラクターをつくって演じているにもかかわらず、キレイごとじゃない感情もあるし偏見もある欲望のかたまりの岡崎太威本人の人生を重ねてギャグにしているところがありますね。

●ちなみに、スメリーの名前はどこからきたんですか?
■マイケルの幼名です。ファンキーは泥臭いという意味ですけど、スメリーはもっと品のあるファンキー、カマトトという意味。すごいいい名前だと思って、作品タイトルのネタ帖に書いてあったんですよ(笑)。それにパフォーマンスってやっぱり直接観てもらわないと分らないじゃないですか。それはニオイ(スメル)と同じだし、こればっかりはいくら世の中のデジタル化が進んでも無理だと思う、という後づけの意味もあります……。

ジャンルを横断する

●バンドと同じ舞台に立ったり、お笑いの舞台に出たり、最近活躍の場がどんどん多様になっていますね。そうした多ジャンルでの活動は、パフォーマンス・アートの舞台とはまた違いますか?
■まず見せ方が違ってきますね。パフォーマンス・フェスティヴァルでは、自分の汚いところを見せちゃったりもするけれど、ライヴで同じようにマジメにやってもお客さんは喜ばないから。最近、スメリーが闘犬のようだなあって思うんです。いろんなジャンルと戦わされていて、「つぎ、お笑い行ってみろ」っていわれてワンワンって戦ったり(笑)。

●意識的に境界を横断しようとしてるわけではないんですか?
■メディア戦略をしようという気持ちは全然なくて、流れにまかせてやってます。僕は欲張りなので、いつも自信がない一方で、どこまで自分ができるか見てみたいんです。もともとイヴェントとかでやっていたから、ホームグラウンドもないし、根無し草なんですよ。

●たけしのテレビ番組「誰でもピカソ」の出演で、お茶の間での知名度がぐんと高まったと思うのですが、テレビはまた特殊なメディアですよね。
■「誰ピカ」はやっぱりヴァラエティだから大変ですよ。テレビを見ている人は、出演者がいいといえば面白いと思ってくれるけど、つまんないといわれれば、全国の人につまんないと思われちゃう。老若男女にとって面白く、かつアートじゃなくちゃいけないというのは難しい。実際出てみると、日本人ってテレビを信仰してると思いました。テレビに出るだけで「すごい」といわれるし、ほんとうにみんな情報に左右されているんだなって。でも逆にそういう人たちにもっとライヴを見に来てもらいたいですね。ライヴは出来不出来があるから、だめだったとき恐いですけど。

●ネタがつきちゃうのでは、というプレッシャーはありますか。
■ありますよ。でも、自分も飽きっぽいので、スメリーも時期によってネタがころころ変わるんです。前は紙をめくっていくのをやっていたけれど、最近は歌が中心で、いまもまた考えていることがあるんです。僕、いじめられっ子だったんで、話しかけて無視されるのがいやなんですよ。世の中に自分のことを認めてもらいたいっていう意識が強いみたいですね。


アートってなに?

●彫刻科出身なのに、観客の反応が直に返ってくるステージに向かったのは、なにか現代美術の酸欠状態を脱したいという気持ちがあったのですか?
■それがもう、スメリーの動機です。あるとき、現代美術が裸の王様に思えて、嫌になったんです。国際美術展を見に行って、「なんだこの配水管みたいなのは!?」、いくら理屈をつけてもインチキだって。それよりもっと人を楽しませて、イイねっていってもらえるものをやりたいと思ったんです。とくにいまは不景気でみんな元気がないし、ネガティヴなものが流行っているけれど、そんな気分でさえも笑いとばせるようなものがやりたいです。人生のせつなさや、ちゃちさとかチープさを表現しながらね。
このまえニューヨークでパフォーマンスをしたとき観客とディスカッションして、笑いやポジティヴなもので燦々と太陽の光を当ててあげれば、人はハッと気づいてコートを脱いでメッセージを受け入れてくれるんじゃないかと話したら、拍手が起きたんです。アメリカ人もそう思うんだって、うれしかった。僕は日本でアートって成立しにくいと思うんです。日本人はセンスがいいから、アートのエッセンスが映画やお笑いとか別のところに出ているけど、アートだけヘコんでる。たぶんアートは西洋の美術をあまりにもお勉強してきたから、いまの状況を見てリアルなものが出せないんじゃないかな。だったら、そうでない方法で日本の感性を出していけたらい いなあって。

●でもそうすると、結局どのジャンルにいっても王道にはなりえないですよね。
■そうですね、どこでもイロモノですよね(笑)。だから最近、ロック・バンドの形式を記号的に演じるゴージャラスみたいに、バンドとか立場をしっかりしてやらないと見てる人がのめり込めないんだろうなと思ってヤバイなって。もっとファンが欲しいしー(笑)。ただ、やっぱり美術がやりたいんですよね。だれもまだなったことのないようなポジションに立ちたいんです。なんちゃって。

●しばらくこの先もスメリーでやっていくのですか?
■いまはスメリーをやったほうがいいかなと思っています。ほんとうはスメリーが幅広くなんでもやって客引きして、スメリーをアートだと思って勘違いする人に見に来てもらって、アートの面白さをわかってもらえればいいなと。いままでは人のイヴェントに呼んでもらってやってきたので、とりあえず来年からは自分から仕掛けていきます。ソロも自分のイヴェントもやっていきたいと思っています。ゆくゆくは美術展にも参加したいし、展覧会も企画したい。マジメにやってるのか、アホなのかわからないような、おバカな人たちを集めてね。

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words:宮村周子

eye17_01白塗りメイク、アフロヘアー、ブラックスーツが定番のスメリー。撮影=三橋純

eye17_021999年ニパフより「スメリーの主張」。一言コメントを挟みながら紙をめくっていく。

eye17_031999年吉本興業「BAKA NIGHT」より。
アクションならぬハクション。くしゃみは出るのか?

eye17_04スメリーの弟分スメソーと。

eye17_051999年恵比寿ミルクでのライブより。バックはユニット「スティンキーズ」。

eye17_061995年の修了制作ビデオより。マイケル・ジャクソンの銅像の前で踊るスメリー。

eye17_07岡崎太威 ビューティ・メイカー 1996~

1999-11-23 at 08:32 午後 in アーティスト・ヴォイス | Permalink

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コメント

去年の暮れ、六本木SuperDeluxで初めてスメリーさんのパフォーマンスを見て感動★しました。日本にもこんなひとがいたんだ!って。やっぱりにゅーよーくの影響を受けていたんですね。。。それ以来ことあるごとにネット検索しているんですが、探し方が悪いのか一向に情報がつかめません。何かイベント情報ご存知でしたら教えてください!

投稿情報: エリ | 2005/03/03 4:38:56

久々にスメリーお馴染みの中目黒SPACE FORCEで今年1発目のイベントやります!
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Pre:Party
2005/3/26(土)
at SPACE FORCE
03-3464-5869
¥1500(再入場可だよ!)
21:00〜4:00

VJ/DJ: エンライトメント(ヒロ杉山) feat.ミズモトアキラ

DJ:  DJ外道 スーパー・メガ・ビッチ・GMカイチャンマン4
MUNEO45

Performance: モダンアート娘、マイケル・ジャクソソ、東方力丸、スメリー

今回は、マジで超ビッグなアーティストが出演! VJにエンライトメントのヒロ杉山さん!!
フィーチャーリングのDJはミズモトアキラさん!!
モデル(フライヤー参照)のDJ外道ちゃんは水着でDJプレイをかましてくれるぞ!!

さらに僕もメンバーに入りたい、アート界のトップアイドルグループ、東京モダンアート娘! 今漫読(マンドク)で話題、マンガを音読する東方力丸さん
ある意味オペラ座の怪人とも言える、マイケル・ジャクソソくんなど、
そしてもちろん、MUNEO45のイカしたDJでお楽しみください!

花見の宴会のようなエンターテイメント満載で朝までノンストップでお贈りします!
ぜひ遊びに来てください!

投稿情報: force | 2005/03/14 0:53:07

本当にごめんなさい。。。お返事頂いていたことに気付きませんでした。もう一度教えて頂けないでしょうか!
お願いします!!!

投稿情報: エリ | 2005/12/10 3:36:29