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1999/11/12
アートサロン'99 at 登満寿(トマス)館vol.2
「空き家が息を吹き返す」
石塚雅子「Vision 見えるものと見えないもの」。階段と畳部屋にインスタレーション的に展示。ここは登満寿さんの部屋で、床の間も見える。
■新宿区下落合にある登満寿館は、登満寿さんというおじいさんが生前下宿屋を営んでいた木造2階建ての一軒家で、今は空き家だ。昨秋、荒れていたこの建物を改装し、若手作家たちが展覧会を行った。昨年は、数人をのぞき“文化祭”的な雰囲気も否めなかったが、自分と同世代の30歳前後の作家たちが集まる登満寿さん家に、今年もおじゃましてみたくなった。
■戦前に建てられ、増築を重ねた建物は、迷路のよう。狭い階段を上がると、畳部屋に、石塚雅子さんの木炭画が吊されていた。身体と手の動きで描かれた無数の渦は、目に見える日常から、見えない彼方へと誘う。「何度も通って掃除をしながら、柱のキズや錆びた釘などに、人が暮らしていた時間を感じた」という石塚さん。その遥かな時間が身体に染み込んで生まれ出た線には、ずっと座っていたくなる力があった。
■隣の部屋には何もないかと思えば、ドッキリ! 片隅に雨宮庸介さんのカエルがいた。畳を持ち帰って色調を合わせたというだけあり、ジメッとした感じがよく伝わる。
■小さな廊下を抜けた奥の部屋は、カーテンを開けるとゴムの匂い。米原昌郎さんの、キノコ雲のような立体が。触ると脳みそのヒダのような部分がぷよぷよし、少しぐらつく。得体の知れない日常の恐怖、30代世代のゆらゆらとしたおぼつかなさ、ちょっと笑ってしまうような軽さ……。
■1階の北向きの部屋には、屋根を切ってこじ開けたらしい天窓がある。塩川岳さんは、どんな条件でも雨戸のスキ間や小さな窓からも入ってこようとする光を表現していた。
■参加作家は18人。圧倒されるとまではいかないが、場を活かした作品が増えていた。パフォーマンスやライブもあり、前庭に面したカフェもくつろげる。畳に座りこんで作品を見たり作家と話すうちに、リラックスしてアートに触れられる。街を使ったアート展でさえ、コミュニケートしているようで閉ざされている場合も少なくない。「日常にアートを」という時の押しつけがましさのない、自然さはあったと思う。動員数563人をどう考えようか?
アートサロン'99 at 登満寿館vol.2
わたしの日常にアートが挑む−わたしの中のX−
1999年11月12(金)〜14(日)・20(土)・21日(日)
登満寿館
新宿区中落合2-24-3
(西武新宿線下落合駅より徒歩7分)
1:00PM〜7:00PM(金土〜9:00PM)入場料500円
words:白坂ゆり
雨宮庸介「対話」。樹脂にテンペラ。古い畳を歩く“やわっ”とした足元の感覚と相まって記憶や五感がざわめく。おちゃめ。
米原昌郎「Our identity」こちらの部屋は畳をはがして、壁を塗り直した。
塩川岳「Crucial Point」真ん中の白い棒は、三方からの光をひとつに集めた線を表す。角には部屋についた流し台が見える。
上をのぞくと、横の小窓(写真には写っていない)に比例してつくられた窓(薄い壁紙が貼られている)が、はめられていた。ちなみに雨もりの跡は、何度塗っても染み出てきたという。
テーブルや椅子が自由に移動できる「ポータブルカフェ」。
1999-11-12 at 10:44 午後 in 展覧会レポート | Permalink
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