1999/08/24
Vol.13 板谷奈津(Natsu Itaya)
日の丸の小旗が天井から垂れた糸にたくさんついている…と思ったら、日の丸ではなかった。白地に赤っぽい色で丸くなっている部分はチ●コだった。涼しげな顔をして地下鉄の吊革に手をかける美女。これはセルフポートレイトなのだが、ノースリーブを着た彼女の脇の下にはふさふさ毛が生えている。彼女はパフォーマンスとそのドキュメント写 真を作品にすることが多い。しかし、「静かな生活」というタイトルのついた地下鉄内で撮影された脇毛の美女の作品では、パフォーマンスをやったつもりは本人にはないという。終始、屈託のない笑顔でインタビューに応じてくれた板谷奈津。だれでもやりそうで、やらないことを作品にしている彼女の素顔が少し見えてきた。
●プロフィールをみていると、学生の頃から積極的に作品発表をしていますよね。
■美大に入ったものの、技術を身につけるためのような授業が面白くなくて…。そんなとき、同級生に熱烈な村上隆さんのファンがいて、名古屋での村上さんの個展や関連イベントに誘われて行ってみたんです。高校生の頃からネオダダとか、赤瀬川原平さんがやっていたことなどに興味があったのですが、当時の村上さん達がやっていることが、自分の興味のあったことと重なってみえたんです。そういったことを目のあたりにして、同じ時間を生きていることにワクワクドキドキしたんです。
●刺激的だったわけですね。
■はい。高校生くらいまではマンガ家になりたいと思ってましたが、マンガには起承転結のあるストーリーが必要ですよね。でも、わたしにとって重要な一つの場面を描くために、そのまわりの状況まで流れをくみながら描いていくことに、大きな疑問を感じていました。
●何をやろうか、探していたところに、出合って触発されたわけですね。
■その頃、村上さんの展覧会に関係していた人が中心になって、クラブ・イベント的な展覧会「HAPPY VIOLENCE CHILDREN」が企画されたのですが、そういった場で発表をはじめたわけです。
●どんな作品をつくっていたんですか?
■3枚組になっていて、1枚目は女の子がランドセルを背負っていて、スカートから白いパンツがはみ出してみえているんですが、背景に本物の赤飯を張りつけてあるんです。2枚目ははみ出したパンツと腿なんですが、白いパンツは白米で、そこに梅干しをつけてあるんです。3枚目は、白米の真ん中に梅干しを置いて、日の丸弁当。この女の子は「生理ちゃん」っていうんです。コマにして展開するのはマンガの影響かもしれないです。
●大学で作品を見せたりはしたのですか?
■ほかの人のつくっているものとは全然違っていました(笑)。でも、今ごろになってちょっと後悔しているのは、大学とはまったく無関係のところで活動していたせいで、専攻していたはずの写真やヴィデオの撮影や編集の技術が習得できていないことです。これが自分でできればつくりたいものがあるのに~なんて感じに、シマッタと思っています。
●セルフポートレイト作品をつくったり、自分自身の身体の部分を作品に使ったりしていますが、これには理由があるのですか?
■カラダをはったギャグっていうんでしょうか…。社会的なことに自分自身はリアリティをもてないんです。わざわざ自分の身体をさらすバカバカしさのほうが私にとってはリアリティがあるんです。私の「おしゃべりな瞳」(1999)という作品は、高いところに掲げていると、パッとみて皆な「日の丸」だと思うんです。白地に赤い丸がついていれば、「日の丸」に見えてしまいます。でも、白い布に乳首プリントしてあるだけなんです。脇毛がみえている「静かな生活」(1999)も、皆が脇毛を剃っていて、剃っていないことがタブー視されるようなところがあります。わたしは、自然なままに生やしておいて、あたりまえのような顔をして地下鉄に乗っている姿を作品にしています。別にまわりの人の反応をみてやろうとか、パフォーマンスとしてやったというわけではないんです。他の人の展覧会を見に行ったりすると、様々なことを考えさせられます。自分でもそんな機会が生まれるような作品をつくりたかったのです。
●dot(d' project)というアート・スペースの自主運営にも参加していますよね。
■21~27才までの14人のメンバーで運営しています。250m2あって天井も3.5mとけっこう高いです。今年の2月にオープンして、メンバーの個展を一通り終えたところです。これからは同世代のメンバー以外の人たとの交流展のようなものもやっていきたいと思っています。dotは特別な主張をもった集まりではありません。個人個人がそれぞれにいろんな考えやプロジェクトを持ち込んでやっていこうとはじめました。なぜ自分たちが主張をもてないのか、展覧会を終えて、皆なで話合ったりしています。
●なぜ同世代にこだわるのでしょう?
■やっぱりいい意味でのライバル意識が芽生えてくるし、刺激になります。見に来てくれる人といろんな話しをしたり、スタジオ食堂のメンバーの人が来てくれたときは、いろんな面での先輩としてのアドヴァイスも聞くことができて嬉しかったですね。dotをやっていなかったら、そんな人たちと出合うこともなかったと思うんです。
●今秋には、東京での展覧会(ドーナッツ展)にも出品すると聞きましたが。
■画廊ではない場所で、本屋さんとカフェがあって、かなり楽しみです。毎日、作家とは名乗らずに、そっと居ようとか考えているんですが。まだ、内容ははっきりお知らせできません(笑)。
●ドーナッツ展(第6期)
徳重道朗、板谷奈津
オン・サンデーズ(東京、外苑前駅より徒歩5分「ワタリウム美術館」地下)
1999年11月10日~21日
words:原久子
板谷奈津(Natsu Itaya)
1974 愛知県生まれ
1997 名古屋造形芸術大学卒業
●個展
1999 「甘い生活」(dot、名古屋)
●グループ展
1993 HAPPY VIOLENCE CHILDREN
(Club Globe、名古屋)
1994 HAPPY VIOLENCE CHILDREN 2
(Club Buddha、名古屋)、
キャバレー オノレ(Rocket、名古屋)
1996 第2回行動写真協会展覧会
(愛知県芸術文化センター・スペースX、名古屋)
An event of Ambient Art 2(今池、名古屋)
1997 アートテキヤ!(宮前正樹ワークショップ 今池、名古屋)
1998 ナイスアート(今池土地建物株式会社、名古屋)
第3回行動写真協会展覧会(canolfan、名古屋)
酒蔵生美術(山星酒造、江南)
1999 cosmic flavor(dot、名古屋)
名古屋造形芸術大学・短大 教員+卒業生展
(電気文化会館東西ギャラリー、名古屋)
1999-08-24 at 09:03 午後 in アーティスト・ヴォイス | Permalink
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