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1999/08/23
草加登起夫展
「宙ぶらりんの確かさ」
■空間に入ると、あたたかさとさみしさが同居していると思った。背中合わせのテーブルが描かれた大きな絵画。その近くには、人と犬が寄り添って、大きさの違うテーブルが空中に浮いている作品を眺めているというオブジェ。クロッキーを立体化したものだという。テーブルは、家族が集まる場所だ。けれど、家族の食卓は、常にあたたかい団らんとは限らない。その時間が貴重だからこそ、なんとなくとりつくろうような時もある。このテーブルのように宙に浮いている、楽しさと気まずさが、ないまぜな感じ−−。
■この作品を見た前夜、十代の子供たちの食生活に関する討論会をテレビで見ていた。必ず全員揃って食べる家もあったが、多くは共働きで、コンビニ弁当が日常の子供もいた。中には親が不仲で、一緒に食べるほうがさびしい思いをするから、部屋で一人で食べるという子もいた。それでも「家族であることを確認する場所」という子や、あらかじめ食事時の話題を考えておくという子もいた。草加さんの作品は、もちろんそうした社会的テーマのものではないのだが、なんだか思い出されてしまった。
■もうひとつは、'90年の冬に降った雪を、お子さんが夏までとっておこうと、ビニール袋に入れて冷蔵庫にしまったことをきっかけに、現在まで続いているという絵画。そのままでは水になってしまうので、テーブルの上でセメントの粉をまぶしてお団子のように丸めた。翌日表面を削っていくと、中味は空で軽い、グレーのかたまりにたどりついたという。雪はどこにも行かず、しかし表面だけを残して消えてなくなった…。それ以来、実体はないが、確かに何か息をしているような「かたち」を描き続けている。
■確固たる形のない、人と人、人とモノとのかかわり。それでも、どこかで希薄さを埋めようとしている。一方で、その距離感を全否定するわけでもない。そんないまの時代の、温度のようなもの。草加さん自身はそれほど叙情的にはつくっていないかもしれない。でも、おそらくいまの若い世代にもすっと寄り添う作品ではないだろうか。
草加登起夫展
1999年8月23日(月)〜28日(土)
藍画廊
東京都中央区京橋3-3-8新京橋ビル1F
tel.03-3274-4279
大家族が使うような長テーブル。積み上げられていると、もう役目を終えたようで少し悲しいような。
人は右に傾いていて、犬は少しもたれかかっているように見える。
雪の花のようなパステル画。
雪のかたまりに出合ってからは10年。さなざまなかたちを、こんなふうに描き続けている。
1999-08-23 at 09:14 午後 in 展覧会レポート | Permalink
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