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1999/08/02
風間サチコ展
「不条理版画」
逆算の風景(16点組)1999左側が、「経済成長率」を示したらしい棒グラフ。右側の建物のカタチをなぞっている。
■版画とは、風刺画なんである。風間さんの展覧会を見た後、どういうわけだか、そう断言したくなってしまった。ユーモラスな反骨精神とでもいうのか、おかしくも皮肉な空気が、会場に充満していたからだ。
■たとえば「逆算の風景」。十六枚組の木版画のうち、左半分が棒グラフの絵柄、右半分が分譲住宅やマンションの絵柄が彫られている。棒グラフはみな、右上がりに登り調子なところで最後少しガクンと落ち込んでいて、そのカタチが、遠近法で堂々と描かれた右の建物のシルエットとじつは呼応している。全体のテーマが「右肩上がりの日本経済」だと聞いて、失笑してしまった。なにしろ掛けられている版画の絵柄はどれも、文字どおり「右肩上がり」の構図になっているのだから。
■描かれているのは、住宅広告で繰り返し刷り込まれる夢のマイホーム・イメージのほかに、ロープウェイ、製鉄所、ガスタンク、トロフィー、富士山といった、あらためて絵で見るには少々懐古調のイメージ。そして、東大安田講堂と二宮金次郎像、国会議事堂が仲良く並んで、ニッポン国の出世主義と金満政治をチクっと指摘している。最後にはお墓もあったりして、夢と金と欲望にもまれて一生を終える、人の世の不条理感が一気にこみあげてくる。
■ドーミエもそうだが、もともと版画家は、よりたくさんの人の目に触れるために社会風刺を版画にした。けれど風間さんは、ここでは絵として版画を展示している。ずっと木版を続けてきた彼女は、荒々しいタッチのコマ漫画風だった以前とはまた趣向を変え、華麗なる彫りによって多彩な画風を見せているが、雑誌や複製物からとったはずのペラペラのメディア・イメージが、逆に彼女の手によって息を吹き返して見えるのもおかしなものだ。コンピュータ化著しいこのご時世に、あえてローテックな木版で手彫りしていく姿勢自体がたくましいというか、力強く感じられた次第なのである。
「風間サチコ」展
1999年8月2日(月)-8月14日(土)
ギャラリー山口
東京都中央区京橋3-5-3京栄ビル
tel.03-3564-6167
words:宮村周子
「逆算の風景」より。どんよりとした空をバックにした、迫力の建て売り住宅。多様な彫りとモノクロームで、独特の雰囲気。
国粋的アイドル(コケシ)1999もともと木彫が民芸とかかわりがあるせいか、手法とモティーフが妙に(?)一致してる作品。やっぱり「右肩上がり」。
右:国粋的アイドル(お宮)左:国粋的アイドル(貫一)ともに1999樋口一葉の小説の主人公が、じつは熱海で彫像になっているらしい。見に行った風間さんは実物のあまりの空虚さに驚いたとか。
風間サチコさん。72年生まれ。
1999-08-02 at 09:28 午後 in 展覧会レポート | Permalink
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