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1999/07/01

久世和寿展

「なんでもない毎日・大切な1秒」


art72_01観客は、気に入った言葉に香水をつけて、100円で持ち帰ることができる


■最近、仕事が忙しい。このご時世に仕事が忙しいことはむしろ喜ぶべきこと、なのかもしれないけど、そのおかげで、一週間前はおろか、三日前ですら、自分がなにをやっていたのか、なにを食べていたのか思い出すことができない。それ以前に、「自分はいったいなにをやっているんだ?」と考えることすらしない毎日だ。

■久世和寿さんの作品である、シュレッダーで切り刻まれた紙切れを眺めながら、僕は自分の一週間を思いだそうとしてみたけれど、やっぱりおぼろげだ。展示室にあふれる紙切れは、彼の小学生から大学生までの教科書だという。かろうじてわかる文字は断片の集合でしかなく、、意味もなく並ぶ数字やアルファベットをじっと見ていると、この一週間の出来事よりも、10年前のあのころのほうが、ずっと鮮明に思い出せることに気が付いた。

■僕の教科書は、一部を除いたすべてが捨てられていると思う。「思う」というのは、捨てたことすら記憶にないからであり、「一部を除いて」というのは、いくつかの教科書はいまでも僕の本棚のなかにあるからだ。僕は、教科書を大切にいまでももっていることすら、この展示を見るまで忘れてしまっていた。

■久世さんは、展示室に朝から晩まで座り込んでいる。そこで切り刻まれた紙切れをひとつひとつ手にとって、「Yes」という言葉だけをはさみで切り取っていた。僕はその瞬間、なぜだか「彼の行為はすごく正しいことなんだ」と思えてきた。彼がいいたかったこと=僕のいいたいこと、という意味じゃない。でもきっと、それは僕のなかにもあるものなんだ。

久世和寿展
1999年7月1日(木)―10日(日)
ギャラリー山口
東京都中央区京橋3-5-3京栄ビル地下1階
tel.03-3564-6167
11:00~19:00(最終日17:00)日休

words:桑原勳

art72_02たとえ断片であっても、力をもちうるのが言葉なんだと思う


art72_03彼が切り取った「Yes」という単語や、気になった言葉が集められていた


art72_04久世さんは一日中座って、言葉を探している


1999-07-01 at 08:50 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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