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1999/05/18

山下ユウコ展

「冷蔵庫の中身まで情報は管理されている」


art67_y01会場全景


■画廊の中を通りからガラス越しに覗くと真っ白に見えた。床も壁も天井にまで、感熱紙に出力されたレシートが貼ってあったのだ。壁には薄ぼんやり人の影が映し出されたように描かれている。チックタックチックタックと時を刻むメトロノームの単調な音が鼓膜を震わす。

■レシートに打ち出されたデータは、買った店のロゴ、場所、時間、商品名、品数、支払った金額に釣銭まで細かく記されている。データはネットワークを通して店内の在庫管理など様々な用途に利用される。一日にこんなレシートを何枚手にするだろうか。独り暮しをしていた頃、コンビニは家の外に置かれた大きな冷蔵庫として大活躍してくれた。でも、決して1日に2回同じ店には入らない。近所に何軒もコンビニはあったという、それだけの理由ではなくて、プライベートな生活のすべてを覗かれてしまうような恐怖があったからだ。

■横たわった冷蔵庫の表面にもレシートが貼られ、ドアを開けると中にまでレシートがあふれている。そして、会場の一番奥の壁には、トイレット・ペーパーのホルダーからもレシートがはみ出していた。こうなると排泄したものまでもが管理されているのか、と改めて考えてしまう。

■もちろん、この作品もいろいろな受け取り方ができるだろう。生活の全て、身を包むものも、身体の中に入れるものも、出してしまうものまで管理されてしまっている現実に対する抵抗感や危機感を表現している、と素直に読み取ることは容易だ。ここに立ったとき、壁に描かれた人のシルエットと、画廊を訪れた人の実体、そしてその影が入り乱れて、現実に起こっていることを実感する。何億、何十億という個人の問題がその裏にひそんでいる。

■ポケットからレシートを探し出して、冷蔵庫のなかに入れていく来場者も大勢いたということだ。この膨大なデータはどこで廃棄されるのだろう。こんなデータは本当に必要なのだろうか、という疑問が湧いてくる。そんなことを考えながら、今朝も地下鉄の駅前のコンビニで、釣銭といっしょに手渡されたレシートを店の前のゴミ箱に放り投げた。

●山下ユウコ展
会期:1999年5月18日~30日
会場:ギャラリーはねうさぎ
  (京都三条神宮道)
お問い合わせ:tel.075-752-0304

art67_y02


壁にもぎっしりレシートがいっぱい

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冷蔵庫のなかにも溢れるほどのレシート

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トイレットペーパーもレシート。使う長さまで管理されているのか?!

1999-05-18 at 04:20 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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