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1999/05/22

三田村光土里展

「家族って奇妙なつながり」


art70_06「パーマネント・ルーム」(1998)。二段ベッドの片方だそう。幼い頃、弟と二段ベッドを使用した私には懐かしかった。


■人はどんな時に家族のアルバムを広げるのだろう? 子供の頃、ほんとにこの家の子なのか疑った時、大人になって挫折を味わった時…。自分の見知らぬ若い頃の父母の姿を見つけて、ほほえましく感じることもあるだろう。そんな時間(あるいはタイミング)の連鎖の中にいる、今の自分の存在を再確認したいのかもしれない。

■三田村光土里は、家族の古いアルバムの写真を素材に、人物のイメージだけを取り出して、まったく架空の家族の部屋をつくった。ビニールレザーマットには幸福そうな家族や親戚の姿がプリントされ、使い込まれたベッドには父と娘の後ろ姿が映し出されている。上からは、透明なガラスでできたベビーメリー(音楽を奏でて回転する、赤ちゃん寝かしつけ用品)が吊り下げられ、窓には、母の世代が好んだ西洋趣味のレースのカーテン。幼稚園の集合写真がプリントされた椅子には、奈良美智の絵に登場するようなレンズをにらんだ少女がいる。

■奥の部屋には、若かかりし父母の写真。大阪万博の風景にはウキウキ気分が漂う。「ジャンプOK」と書かれた部屋には、花柄やストライプの、使われた跡のあるマットレスが敷かれている。壁には、夏のスキー場に研修旅行にでも行ったのか、リフトに乗ったお父さんの写真。ふだんは生真面目に働いている“日本のお父さん”が、お土産を抱えて気分も浮遊している。子供の頃マットレスで跳ねると怒られたものだが、私も跳んでみた。

■最初の部屋に戻り、青空をバックにした、喪服にサングラスという出で立ちの、現在の父と母の写真を見直す。三田村さんが生まれた'64年の東京オリンピックも、'70年の大阪万博のユートピア幻想もはるか彼方。だが、子供を育て上げ、世の中を支えてきた日本の大人の強さとノスタルジー、若い頃をほうふつさせる粋でおしゃれな感じが見えた。

■私的な素材なのに普遍的で、誰もが自分の経験や思いを投影できる。しかし、それを客観的に映しながらゆっくり回る鏡の作品を見たとき、これはフィクションだと突き放された。自分の家族ももしや、何かの“設定”では?そんなゾクッとする思いもさせられる不思議な空間だった。

三田村光土里展「パーマネント・ルーム」
1999年5月22日(土)〜6月27日(日)
現代美術製作所
墨田区墨田1-15-3
(東武伊勢崎線東向島駅から徒歩3分)
tel.03-5630-3216
12:00〜19:00(土日は18:00まで)
月火曜休

words:白坂ゆり

art70_07ベッドの上に、父と娘の古い写真がライトボックスで映し出されている。

art70_08「ピクニック・ブルー」(1999)。幼稚園の遠足の集合写真。世界と対峙しているような中央の少女は三田村さん

art70_09「Untitled」(1999)。おしゃれして出かけた万博。

art70_10マットレスの部屋。靴を脱いでジャンプしてみよう!

art70_11「ファッション・フォト」(1999)。三田村さんのお母さん。

1999-05-22 at 10:03 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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