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1999/05/28

大竹伸朗展

「さすらいのギターヒーロー」

art70_01「ロウソク岩/隠岐」(1996)。ゆらゆらイカ天国。これが色鉛筆画なのにも驚く。展覧会チケットも、このイカ型。


■無計画な旅で、ひなびた町に出てしまった時、多くの人は“見るべきモノ”がないと途方に暮れる。ところが、大竹伸朗氏が鳥羽、佐渡、別府、室蘭など日本各地の地方を1年半、行き当たりばったりに旅して描いたという今回の作品は、一見そんな風景ばかりだ。閉店(引退)してしまった田舎の「ホームラン食堂」、イカが干されたさびしげな港など、“打ち捨てられた日本景”が拾い上げられている。しかし、そうした再発見的な着眼点のオモシロさなら、写真の分野ですでにやられてしまっている。今回の作品のスゴさは、実在する風景からのイメージが増幅&爆発オンパレードしていることだ。そしてその世界観を覗くヒントは、「人造人間キカイダー」の絵と、変身前のジローの絵にあるようなのだ。

■「人造人間キカイダー」とは、人造人間ジローが正義の味方キカイダーに変身し、悪の秘密結社ダークと戦う物語。石ノ森章太郎のマンガをもとに、'72年にTVで実写化された。ジローは良心が不完全なので、悪と正義に引き裂かれ、時折悪魔の笛の音に苦しめられる。ギターを背負い、旅をしながら戦うさすらいのヒーローだ。敵の怪人にもアカネイカとかオンナベニクラゲとか海洋生物が多く、米子や伊香保などの地方ロケもあった。私たちが子供の頃に見たヒーローの多くは、孤独で哀愁が漂い、へんぴな山や海岸で戦っていたイメージがある。これもまた日本人にとっての原風景のひとつといえないだろうか?

■'55年、東京に生まれた大竹さんは、武蔵野美術大を休学して北海道の牧場に住み込んだり、渡英したり。'95年以降は、ボアダムスのヤマタカアイと音楽とアートの両方でコラボレーションしたりと、一つ所にとどまらない“旅人”だ。

■今度の旅では、思うに、キカイダーの網膜で風景が見えちゃったのではないか。風景の上に、スナックのマッチやカラオケ屋のネオン、水族館のゾウアザラシなどの印象や、日活映画やら土曜ワイド劇場やらの記憶が重なっては、心のエレキが鳴ったのだろう。これは、絵画でしかできないラディカルなことだ。しかも、絵画になりそうもないモチーフで。そして、ここに残された景色も、キッチュではなく、ラディカルな日本景なのだ。 

大竹伸朗展「ZYAPANORAMA 日本景」
1999年5月28日(金)〜7月11日(日)
パルコギャラリー
渋谷区宇田川町15-1
渋谷PARCOパート1 8F
tel.03-3477-5873
10:00〜20:30
(入場は20:00まで)無休
入場料:一般500円 学生400円
(中学生以下無料)
『ZYAPANORAMA日本景』(朝日新聞社刊)も発売中

words:白坂ゆり

art70_02


「ZAP!/東京」(1995)。実物とは、若干色が異なるキカイダーもどき。

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「ウルトラマンランド/熊本」(1996)。ゾウがぱお〜ん。鼻先の上空に、何か“希望”を感じる。

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手前のオブジェは「ワニのいる風景」(1999)。ちなみにワニマークのTシャツも販売されている。

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「浴室景II/大阪」(1995)“男女の逃避行”“道頓堀の安ホテルで事件”といったサスペンスドラマの匂い…。

1999-05-28 at 09:57 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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