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1999/04/06

小林孝亘展

「カルタあそび」


art62_01横並びにいろいろなモノの油彩画が並ぶ会場風景。中央が「Tree」(1999)。小林さんは現在タイに住み、今回はフランス滞在時のものとタイでの作品が展示された。


■小林さんの展覧会を見ると、子どもの頃よくしたカルタ遊びのことを思い出す。大人になってもする百人一首のほうではなく、子どもが言葉を覚えるために使う、五十音で始まるモノの絵と名が表裏に印刷されたやつだ。「あ」だったら「あひる」、「い」だったら「いぬ」とか。

■会場に入ると、木漏れ日や星空、お皿、雲、金魚、蚊取り線香などなど、日常の事物がぽこんと取り出されて、キャンヴァスに描かれていた。余白はあまりない。近寄って見ると、表面はみな丁寧に丁寧に塗り込められているのだが、それぞれのかたちはごく単純化されていて、雲の絵などは色の濃淡だけで小気味よく描かれている。そして、ディテイルが省かれているからだろうか、「お皿だ」とか「金魚だ」といったことはひと目でわかるのだが、どれもある特定のものや場面を描いたというふうには見えてこない。だれでも知っている、けれどどこか新鮮な印象をもたらす「ものそのもの」、なのだ。だから、カルタを思い出したのか。

■けれど、小林さんが描くものたちは、完全にニュートラルな商品カタログのようかというと、まったくそうではない。彼が毎日生活するなかで目にした世界が、まるで日記のように作品として結晶化されていることが、じんわりと伝わってくるのだ。奨学金を得て96年から1年間タイに滞在した彼は、その成果を昨年の個展で発表していたが、水に浮かぶ家やテント、その頃から描かれはじめた空っぽのお皿などのモティーフは、土色を背景にしていたせいか、どことなく湿気のある異国の空気を感じさせた。そしてその後、フランスでの滞在制作を経験したあとの絵は、青い空に象徴されるように、カラリと乾いた空気と色鮮やかさを、たしかに得たように見える。

■たとえばそのお皿の絵のように、毎日毎日違う食事を盛られながら、いつも変わらず目にするものが、ただ空っぽのままそこに描かれるとき、人は、なにか静かな時間の連鎖のようなものを感じとるのではないだろうか。そうして、作品という器を前にしただれもが、日常にまつわるなにがしかの思いをそれぞれにめぐらすことができる。まるで生きることをひとつひとつ目で確かめさせるような小林さんの作品は、絵画という回路を使って、特別じゃない、穏やかで本質的な事柄について伝えているように思った。

「小林孝亘 Seventy Five Days:FRANCE-THAILAND」展
1999年4月6日(火)−5月1日(土)
西村画廊
東京都中央区銀座4-3-13西銀座ビルB1
tel.03-3567-3906
10:30〜18:30 日・月・祝休
但し4月26日は開廊

words:桑原勳

art62_02「Gold Fish」(1998)。昨年のフランス滞在時に描かれたもので、自画像なんだそうだ。


art62_03「Cloud」(1998)


art62_04「Dish」(1999)。タイで制作された作品。


art62_05「Micro wave」(1999)


art62_06「Shopping cart」(1999)。紙にインクで細かく描き込まれた独特のドゥローイング。これが後にペインティングとなる。


1999-04-06 at 09:27 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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