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1999/03/30
Vol.08 タカノ綾(Aya Takano)
美術系の高校在学時代から絵を描きはじめ、大学入学後は雑誌にイラストを寄稿。日常的にドゥローイングを制作しつづける。アーティスト村上隆の主催するクリエイティヴ集団「HIROPON FACTORY」に参加してからは、スタッフとして活動に関わる一方、その独自の絵の才能を村上に見出され、村上プロデュースによる若手作家展「HIROPON SHOW」に出品。97年、初個展「SHUZ★WA★KIMASERI」(Shop33、東京・吉祥寺)を開催して好評を博す。
以後、アーティスト活動は軌道にのり、98年は村上キュレイションによる「ERO POP TOKYO」(George's、LA)、「ERO POP CHRISTMAS」(ナディッフ、東京・表参道)に出品して、SFタッチのファンタジック でポエジーあふれる絵画世界が、ますます幅広いファン層を獲得した。現在『プレ イボーイ』誌にイラストを寄稿するほか、『美術手帖』誌上でヴィジュアルコラムを連載中。今春は「東京ガールズブラボー」展(ナディッフ、5月28日─6月28日) に出品予定。宇宙で生活している(らしい)女の子キャラや、ブリッジしたお腹の上に富士山を載っけた人など、彼女の描く人物はいつも意外な設定の非現実的世界を生きている。重力とかささいな日常的常識から逃れて自由にふるまう様子は、それだけでかなり魅力的で想像力を刺激するのだが、さらに作品を複数見つづけるうちに、断片的だったそれぞれの場面 が少しずつつながって、背後に大きな物語の流れのようなものが見えてくるのがとても面白い。あたりまえかもしれないが、作品はひとつで完結しているのではなく、みなゆるやかに有機的な関連性をもっているのだ。つぎつぎと作品を生み出していくタカノさん自身のなかの、創造の原風景をのぞいてみたいと思った。
おもにドゥローイングやペインティングを中心に発表してきたタカノさんは、漫画にトライしたり、洋服のデザイン画を描いたり、初個展では自主編集で作品集をつくったりなどなど、アウトプットの回路がとても多い。ひとつの形式にこだわらない自由な姿勢は、ジャンルが混合するいまの表現を象徴するようで興味深い。最近はCGの専門学校にも通っていて、3DのCGにハマっているというので、まずはその話から聞いてみた。
動画としてのイメージ
●3Dがとても気に入っているそうですね。
■はい。いま、やってて一番面白いです。だれの指図もうけないで自由にできるし、すごくやりたかったものだから、夢がかなったみたいでうれしいです。
●どうしてそんなに3Dに惹かれていたんですか。動画に興味があったんですか?
■絵を描くとき、べつに静止画で見えているわけじゃなくて、いろいろ過程があって、「この絵は動いていたほうがぜったい楽しい」という気持ちが私のなかにあるんです。そういう、絵では色とか形とか限界があってなかなかできないことが、CGだとできるから。
●描くときは、いつも動いているイメージなんですか。
■そうでもないです。最近はペインティングをたくさん描いているんですけど、完成イメージが先にできているものは、ペインティングでやりたいと思うんです。どうやって描くかはイメージによって全然違う。
●ドゥローイングの場合はどうですか?
■ドゥローイングは、本物の人間の実写的なイメージが思い浮かんでいて、それをああいうキャラクター的な感じに写し換えています。
●それはおもしろいですね。イメージは、最初から頭のなかにあるものなんですか。
■最初からあります。もともとファッション写真というか、映像っぽいですね。
手塚治虫とトンデモ本
●作品は宇宙を連想させる、SF的なものが多いですね。宇宙に住んでいる女の子が地球をあこがれていたり、とか。頭のなかではそれはなにかお話になっているんですか。
■作品全部が話としてつながっているかどうかはわからないんですけど、宇宙は好きなイメージで、こだわっているというか、いつのまにかそっちに戻っていっちゃう感じです。
●具体的には、どんな風に見えているんですか。
■うーん、あんまり日常的じゃなくて、未来的で、オブジェもこういう普通の机はなくて……。最近気づいたんですけど、昔手塚治虫の「火の鳥」を読んだのがすごい自分のなかに残っているんじゃないかって思うんです。あれが、本当に私のなかでの常識っていうか、あたりまえのものだったから、それが根本にあるのかなって。最近は見ていないんですけど、物心ついた頃から中学生ぐらいまで、暗記するほど読んでたから。父の趣味で家にあったんです。あと、「トンデモ本」ってあるじゃないですか。ああいう疑似科学本もたくさんあって、それを読んで育っちゃってるから、ほんとに私、そこに書かれたことも常識として信じてたんですよ。横尾忠則さんの言葉とかも、全部鵜呑みにしてて(笑)。
●お父さんも、やっぱり信じてたんですか。
■ふたりですごい盛り上がってて(笑)。それで、ある日私が「トンデモ本の世界」っていう本を買ってきたら、家にあるほとんどの本が載っていて、全部科学的に批判されちゃってんですよ。それで、「ア~」って世界が崩れちゃって(笑)。それを信じていた頃は、宇宙に行けば宇宙人がいるしとか考えて、すごい楽しかったんですけど、結構ガクって感じで。高校を卒業した十九歳くらいのときです。お父さんもショックを受けてて(笑)。
ワンシーンごとの面白さ
●いま作品に描かれている空想の世界は、どんなふうに生まれたんですか。トンデモ本の真相があかされる前からあったんですか。
■前からありました。SFとかを読むときは、自分で家具や服や髪型とか勝手に考えられるからいいんですけど、コミックとか映画を見てると、私が気に入らないところがぜったいある。それがいやで、「自分で考えた版」をつくりはじめたという感じです。いま描いているようなものは大学に入ってから。その前は、まじめに油絵とか描いていました。高校が美術系だったので、毎日六時間とか美術の時間があって、デッサンやったりしてた。子どもの頃の夢も画家で、絵を描くのはずっと好きでした。ゴッホとかミロもわりと好きですし、ピカソを見て恍惚としちゃったりして(笑)。
●実写や映画の制作には興味がありますか。
■実写を動かすのはやってみたいですけど、映画はあまり興味がないです。映画は自分ひとりではできないし、あと、私はお話をあまり考えられないから。読んで楽しむのは好きなんですけど、私のお話でみんなを楽しませる自信は全然ない。意味がそんなになくてももつような長さのものだったらいいですけど……。やっぱり、物語よりもワンシーン、ワンシーンのほうが好きなんです。
つるつるしててドキドキする世界
●日頃目にするもののなかで、どんなものが興味を引きますか。
■因習的なものは全部いやですね。
●(笑)そしたらほとんどですね。
■そうですね。でも私、野球とか、吐き気するぐらい嫌いなんですよ。ライトとか芝の色とか、ヴィジュアル的にいつ見ても同じじゃないですか。
●じゃあ、宇宙飛行士の見た地球とかは?
■ああー、いいですね(笑)。宇宙とか、見たことのない深海生物とか面白いですね。
●そうなると、逆に普段日常生活を送るのがつらくないですか。
■高校のとき、すごいいやでしたけど、最近はSFとか読んで、自分で想像してまぎらわしている。私の描いている世界がそんなに素敵で新しいわけでもないけど、私のなかではいまは満足ですね。
●SFはほんとによく読まれてるみたいですね。
■私、やっぱりギブソンの「ニューロマンサー」とかすごいと思うんです。なんか、どんどん空間が移動していって、高揚感やスピード感がすごくて、のめり込むと、一緒にガーって動いているような感じで。
●漫画や映画はどうですか。
■メビウスとか、大友克洋とか、あとギャグ漫画系がすごく好きです。パンクっぽい、破壊的で激しくて、アクの強いモノ。それと諸星大二郎とか手塚治虫とか。漫画は、いつでもどこでも読めちゃうのがいいですよね。映画だと、「ブレイン・ストーム」や「ブレードランナー」、「二00一年宇宙の旅」とか。それと、アニメが結構好きです。勝手に思っているだけなんですけど、アニメは日本画っぽくて見やすいんです。日本画が西洋のものに比べると、きれいでしっくり見えるように、アニメも平面的な気がする。日本人は平面でとらえるのがうまいのかなって。あと、最近CG系のものが気になってて、タナカカツキさんとかすごいかっこいい。もう私の考えている未来像とすごい似ているんです。つるつるしてて、有機的で、ピカピカしてて、ほーわんと平和な感じ。それでドキドキする(笑)。
●そういえば、タカノさんの作品には、誕生や愛のテーマが多いですね。
■そうですね。ゴーギャンの「われわれはどこから来て、どこへ行くのか」というタイトルの絵がありますが、ああいう問題にも関心があって、それでかな。
●ところで、本当にいろいろ手がけてらっしゃいますけど、3Dのほかにやってみたいことはありますか。
■服もやりたいですけど、自分では縫ったりできないんで、手伝ってくださる方がいたらすごくやりたいです。昔から私、ひとつに集中するのはバランスがとれないようでいやなんです。3Dだけやっていると、絵もやりたくなっちゃう。最近は、たくさんの人に見せたいという気持ちもあまりなくて、本当にいまはCGが楽しいし、作品をつくれていれば満足、みたいな状態です。
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words:宮村周子
Hot House: strange creature 1998 ドゥローイング
Hot House:foothigh close up 1998 ドゥローイング
Hot House: time to die & rebirth 1998 ドゥローイング
タコ ブリッジ 1997 ドゥローイング
火の用心なり 1998 ドゥローイング
宇宙戦争 1998 ペインティング
Swallowing the Universe 1998 ドゥローイング
Capricorn 1997 ペインティング shop33での個展より
タカノ綾(Aya Takano)
1976年 埼玉県生まれ。
現在多摩美術大学芸術学部に在籍中。
1999-03-30 at 07:43 午後 in アーティスト・ヴォイス | Permalink
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コメント
昨日NYの紀伊国屋で タカノ綾ちゃんの本が かなり目立つ所に飾ってありました。時間がなくてジャパンソサエティーまでは行けませんでしたが 6月までに NYに行ったら行きます。昔なんどか一緒に遊んだことがあって もう何年も連絡とれないけど 書いてもらった似顔絵は 私も友だちも家宝にしてます。
投稿情報: トモコ | 2005/05/02 22:58:45
私もイッセイミヤケ関連でメールで取材させてもらったけど、全然お会いしていないなあ。
「リトルボーイ」展、もし見る機会があれば、感想ください。
投稿情報: shirasaka | 2005/05/05 13:04:34