« ボロス・コレクション −Boros Collection | メイン | 堂島リバービエンナーレ2009《リフレクション:アートに見る世界の今》 »

2009/08/02

クーパーヒューイット国立デザイン美術館「Design for a Living World」

この世界のためのデザイン

Behar4 NYから塩崎浩子さんのレポートです。

欧米を中心に国際的に活躍する10人(社)のデザイナーが、樹木、植物、羊毛や魚皮などの天然素材を求めて世界各地へ趣き、現地の人々と協同でその素材を用いたデザインプロダクトを作る試み「Design for a Living World」が、マンハッタンのクーパーヒューイット国立デザイン美術館で開催されている。

Organic chocolate patty, shaving tool and jute bag. Designed by Yves Béhar. Costa Rica, 2008. Photo: Dan Whipps

展覧会を主催したのは国際的な自然保護団体 The Nature Conservancy。普通のデザイン展とやや異なるのは、出来上がった製品と同時に、その試作品、ドローイング、素材そのもの、原産地の地図、そしてデザイナーへのインタビューや製品が出来上がるまでの様子を撮ったビデオなどの関連資料が豊富に展示されていること。原材料がどこで生まれ、どのように育てられ収穫され、現地の人々の手によって加工され、そして製品となるのか、その過程をていねいに追っている。現地を訪れたデザイナーたちは、素材への先入観を覆されたり、大自然に圧倒されたり、素材の予期せぬ反応に驚いたりすることもしばしば。そんな時、現地の人々の知恵や職人的な技術がデザイナーにインスピレーションを与え、大きな助けとなっていることがよく分かる。

Mizrahi2_2 New York fashion designer Issac Mizrahi used salmon leather to create a dress, jacket and shoes. Photo: Mackenzie Stroh

アイザック・ミズラヒ(Isaac Mizrahi)の流れるように美しいラインのドレス(写真左)。生地にはナチュラルアイボリー色の丸いスパンコールが大量に縫い付けられている。これはアラスカ南西部でとれるサーモンの皮で作ったもの。この地域では毎年夏、何百万ものワイルドサーモンが河川にあふれるという。ミズラヒは蛇皮に似た紋様を持つこの素材を動物の皮の代わりに用い、かつてはゴミとして捨てられていたものを女性を飾る美しい素材へと転換させた。同じくサーモンの皮で作られたシューズもエレガントで美しい。

コスタリカ産のオーガニックチョコレートで製品を作ったのはイヴ・ベアール(Yves Behar)(写真上)。コスタリカではココアは祝祭を彩る伝統的な飲み物であり、結婚や出産などのおめでたい席で親戚や友人たちが集まり皆で一緒に楽しむものだという。彼はその風習に習い、ココア農場で働く女性たちと協同で、持ち運び便利なココアの丸いパテを作り、ジュート布でそれを入れる袋を、さらにパテを削る小さな道具も作った。この道具でココアを削ってカップに入れ湯を注ぐ、カップの端に掛ければスプーン代わりにもなる。

Meindertsma1Dutch textile designer Christien Meindertsma knits her commissioned wool rug in her studio. Photo: Roel Van Tour

「自然の花や草を食べて育った羊の毛はとても柔らかいのです」と語るのはクリスティン・メンデルツマ(Christien Meindertsma)(写真右)。彼女は今回、オーガニックウールを求めて、1800年代後半から羊の放牧が行われてきた米国北西部のアイダホ州へ趣いた。彼女が極太の編み針で編んだ巨大なラグは太陽と土の色が染み込み、ほのかに草の匂いがした。

その他にも、チューインガムの原料となるねばねばした樹液を煮詰めたもので装飾した陶器や、象牙に似たテクスチャーを持つ植物象牙(アメリカゾウゲヤシ)を使ったジュエリーなど10個のプロジェクトが展示された。

残念ながらこれらの天然資源や豊かな自然の多くが現在、気候変動や森林伐採、環境破壊などの脅威にさらされている。美しく洗練されたデザインを通じて、普段あまり意識することのない原産地や作り手について思いをめぐらせること、そしてそれらを取り巻く環境について考えることーーそんなきっかけを与えてくれる展覧会だ。

★「Design for a Living World」は2010年1月4日まで開催、その後全米を巡回予定。参加デザイナーと訪問国は Yves Behar/コスタリカ、 Stephen Burks/オーストラリア、 Hella Jongerius/メキシコ、Maya Lin/米国メイン州、 Christien Meindertsma/米国アイダホ州、 Isaac Mizrahi/米国アラスカ州、Abbott Miller/ボリビア、 Ted Muehling/ミクロネシア、Kate Spade/ボリビア、Ezri Tarazi/中国。

クーパーヒューイット国立デザイン美術館

Words: 塩崎浩子

2009-08-02 at 11:38 午前 | Permalink

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
https://www.typepad.com/services/trackback/6a014e885bb6e5970d015432c73e55970c

Listed below are links to weblogs that reference クーパーヒューイット国立デザイン美術館「Design for a Living World」:

コメント