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2009/06/09

パーク・アベニュー・アーモリー「エルネスト・ネト:anthropodino」

見る、におう、ふれる

NYから塩崎浩子さんのレポートです。

Neto6_3 観客が作品の中に入り込み、体験する作品で知られるエルネスト・ネトのこれまでで最大規模のインスタレーション「anthropodino」が、マンハッタンのアッパー・イースト・サイドにあるパーク・アベニュー・アーモリー(Park Avenue Armory)のWade Thompson Drill Hallで公開されている。ニューヨーク市のランドマ−クの一つ、パーク・アベニュー・アーモリーは1877年から1881年のあいだに建てられた州兵施設(兵器庫)だった場所。中にあるこのホールは市内最大級の柱や部屋のないがらんどうの空間で、隣接する建物にはルイス・コンフォート・ティファニーやスタンフォード・ホワイトのインテリアがそのまま残されている。この貴重かつ巨大な歴史的建造物を使って、かつてない規模と内容のパブリックアートを見せていこうと専門の非営利美術機構が設立された。
Ernesto Neto, anthropodino, 2009. Photo by James Ewing. Courtesy of Park Avenue Armory.

Neto4 巨大な体育館を想像してもらうといいだろうか。ホールの大きさはこの地域のほぼ丸ごと1ブロックを占める広さ約5100平方メートル、高さはおよそビル8階分。ここで年に1度、アーティストによるコミッションワークを発表していく、今回はその第一弾。オープニングでは、ネトの作品にちなんで香辛料を使ったカクテルやスナックがふるまわれた。

Ernesto Neto, anthropodino, 2009. Photo by James Ewing. Courtesy of Park Avenue Armory.

会場に入ったとたん、そのダイナミックさと繊細な美しさに圧倒される。アーチ型の高い天井から布がドレープを描きながら降下する。薄布に包まれ、ぽってりと重たげな香辛料や砂が天井から鍾乳洞のようにいくつも垂れ下がっている。anthropodinoのanthroは「人体」を意味する言葉で、作品の中に入ると自分がミクロの存在になって人の胎内を探検しているようだ。爪を立てれば破けてしまうほど薄い布でできた生なる宮殿。どこからどこへつながっているのか、その定まらないかたちを、木の「骨」が節になって地上へつなぎとめている。表面には空気や水を通す植物の気孔のようにたくさんの丸い穴が開いている。

Neto76 ターメリックやクローブの匂いに鼻を近付け、ラベンダーのクッションが置かれた部屋に寝そべり、空色のプラスチックボールに満たされたプールに飛び込む。見る、匂う、触れる(足の裏でも感じて)、跳ぶ、遊ぶ。ネトの作品は、ふだんアートを見る時にはあまり意識することのない様々な感覚を使うよう、優しくうながしてくれる。そして人間のからだが内も外もなく、無数の穴を通じて外の世界とつながっていることを理屈抜きで意識させてくれる。

Ernesto Neto, anthropodino, 2009. Photo by James Ewing. Courtesy of Park Avenue Armory.

無料で公開されていないのが残念だが、ニューヨーク最大級であろう、都会の真ん中でこれだけの大規模なパブリックアートが体験できることは貴重である。6月14日まで開催中。

Park Avenue Armory

Words: 塩崎浩子

2009-06-09 at 03:49 午前 in ワールド・レポート | Permalink

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コメント

出産後、「artを観に行く」、事もすっかりご無沙汰で、
というか、もともとそれほどしょっちゅう行っていた訳ではないけれど、
こんな催しなら、身体中で楽しめそうですね〜。

子供が駆けて行く姿が印象的です。
身近にこんな展覧会があって、エエな〜!(笑)
できるものなら我が子達も連れて行ってやりたい。
こんなお洒落さんではないけれど(^^;)

投稿情報: ちるちる | 2009/06/22 14:06:50