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2008/06/25
ピーター・ポマー展「THE BLACK ANGEL'S DEAD SONG」
脳内宇宙の冒険
ドイツのアーティスト、ピーター・ポマーの個展がヴァンジ彫刻庭園美術館で開催中である。ポマーの作品は、数年前に六本木のギャラリーで見たことが あった。複数のギャラリーの入っているビルがあり、狭めの階段を昇っていくと、ギャラリーの内部ではなく白い外壁に、さりげなく描かれた絵に偶然気づき、 驚いたことがあった。色鉛筆のような細く淡いドローイングが壁を這うように増殖された光景に、しばし見とれてしまったのだ。絵描きがキャンバスとして選ん だ場所と描かれた絵の面白さが妙に印象に残っていた。そのため、今回の個展は楽しみだった。
場所は静岡県・裾野インターより沼津方面に10kmほど走ったところにある「クレマチスの丘」。そこに位置する、イタリアの彫刻家ヴァンジの作品が 常設されている美術館の企画展として行われている。ポマーの作品は、コンクリート打ちっ放しの吹き抜け空間を飾っていた。サイズの統一されたドローイング が整然と並んでいる。スケッチブックサイズでさほど大きくなく、鉛筆や水彩絵具で描かれていた。繊細なタッチ、のどかな色づかい、素朴さゆえに子どもの絵 のように見えなくもない。共通しているのは画面を覆い尽くしていること。しいていうなら植物と女の子の描写が目立つが、色も構図もモチーフも変化に富んで いる。もうひとつのパターンは、画面の中央より少し上に円を描き、その中だけを埋めた作品群。こちらは、円形を意識した幾何学的模様を入れたりしている が、女の子や雫模様、そして風景が比較的多かった。そしてスペースの一角は、展覧会タイトルにもなっている「THE BLACK ANGEL'S DEAD SONG」というシリーズ作品が占めていた。こちらは他とは違い、ほぼ黄色と黒だけで描かれ、絵本原画のようにストーリー展開されていた。
ここに足を踏み入れた瞬間、一度に多数の作品が来場者の眼に飛び込んでくる。自然光が差し込む空間で、心地よい色彩のシャワーを浴びている気にな る。駆使された色づかいが美しいからに他ならない。そしてどんな絵なのか1点1点と対峙していくと、それぞれに世界があり完結していることを確信する。た だひたすら疑問なのは、なぜこのような絵が描けるのかということ。ストリートアートに影響され、壁面ドローイングで著名になったアーティストであるが、今 年40歳の男性が描く絵とはとても思えない。何かに取り憑かれて腕が勝手に動いてしまうような、描くより描かされている感じも受ける。だが彼の芸術性を語 る言葉がなかなか見つからない。
ポマー展を見に来ていた人たちの反応は「わぁ綺麗」「色がたくさん!」「素敵ねぇ」とステレオタイプだったが、それが逆に興味深かった。そして誰もが感じ る印象、誰もが口に出す言葉、この感嘆こそが実直な作品鑑賞なのだと気づく。言語化できない状態をもどかしいと思っていたが、感動したり感銘を受けた時に まず出てくる「すごい!」と同じなのだ。言葉では上手く言い表せないけれど心に響く表現、ずっと眺めていたい作品なのである。
取材したのはクレマチスの花がちょうど美しく咲いている季節だった。ポマーの絵にはクレマチスを彷彿させるような花がいくつか登場していたが、それは偶然 らしい。未発表のドローイング(98点)と、新作ウォール・ドローイング、床に広がる万華鏡の立体作品が出品されている。
ピーター・ポマー展「THE BLACK ANGEL'S DEAD SONG」
ヴァンジ彫刻庭園美術館
2008年4月26日(土)〜7月1日(火)水曜休
10:00〜18:00
入場料 大人1200円、高・大学生800円、小・中学生500円
TEL 055-989-8787 〒411-0931 静岡県駿東郡長泉町クレマチスの丘347-1
words:斉藤博美
2008-06-25 at 11:41 午前 in 展覧会レポート | Permalink
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