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2008/06/06

ステファノ・アリエンティ(Stefano Arienti)「Library」

Sa1NYから塩崎浩子さんのレポートです。

2007年12月のニュー・ミュージアム再オープンをきっかけに、マンハッタンのロウアー・イースト・サイド周辺にはギャラリーやアートスペースが続々と誕生している。長屋風に隣り合う小さな画廊やオルタナティヴ・スペースのほか、チェルシーやアップタウンの画廊が移転してきたり、新たなスペースを開いたりもしている。
STEFANO ARIENTI《Library》2007 - 2008
99 manipulated books and wheat dimensions variable © Stefano Arienti and Lehmann Maupin Gallery, New York

小さな工場や材木店が並ぶクリスティー通りにセカンドギャラリーを設けたリーマン・モーピン(Lehmann Maupin)もその一つ。

現在展示しているのはイタリア・ミラノ在住の作家、ステファノ・アリエンティ(Stefano Arienti)の作品「Library」。壁には「靴を脱いで、この図書館に入って楽しんでください」とある。これが図書館? 図書館といっても書架や机があるわけではない。柱や仕切り壁のないがらんとした部屋いっぱいに巨大な砂山のように盛ってあるのは精製する前の小麦の粒である。その小麦の山の一部が雪崩の跡のように崩れて、何冊かの本が顔をのぞかせている。

靴を脱いで小麦の山に足を踏み込んでみる。まず砂に足がめり込むような感触があり、山をだらしなく崩し、その後にひと粒ひと粒、小麦の感触がリアルに伝わってくる。食べ物を踏み付けている罪悪感にも少しかられながら、めり込む足を動かしながら本を探してみる。本を手に取れば小麦がざらざらと手にこぼれ落ちてきて、ページをうまくめくることができない。本にはコップの底ほどの丸い穴が穿たれていたり、書き込みがあったり。

Sa2STEFANO ARIENTI《Library》2007 - 2008
99 manipulated books and wheat dimensions variable
© Stefano Arienti and Lehmann Maupin Gallery, New York

この作品は、アメリカ・テキサス州のArtpace San Antonioでのインターナショナル・アーティスト・イン・レジデンス・プログラムで2007年に発表した作品の再制作である。埋められた99冊の本は彼がこの地で集めたもので、カミュやフィリップ・K・ディックなどの小説から自然科学、哲学、芸術書まで幅広い。アリエンティは身近な素材や本(印刷物)を使って、見慣れた現実とはほんの少しずれた、不可思議なもう一つの現実(あるいは過去や未来)の世界を観客に体験させる。小麦の粒でできた図書館はそのかたちを決して定めることはなく、無限に本を呑み込み、永遠に流れ続けている。

ギャラリーの簡素なたたずまいは前の建物の雰囲気を意図的に残したのだろう、画廊というより倉庫のよう。木がむきだしの床に高い天井。展示室は2階部分まで吹き抜けになっていて、きしむ細い木の階段を上がるとベランダのような場所があり、作品を上から眺めることができる。チェルシ−の狂躁や喧噪はここにはない。細部にまで見せる神経が行き届き、ゆっくり静かに作品と向き合える場所である。

Stefano Arienti: The Library( http://www.lehmannmaupin.com )は6月7日まで開催。

Words: 塩崎浩子

2008-06-06 at 02:52 午前 in ワールド・レポート | Permalink

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