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2007/10/02

玉野大介展

Dscf47829月の後半だというのにまだ日差しも強く、蒸し暑い夕方に玉野大介の展示を見に行った。バスを降りて、目の前の黒いビルがギャラリーだと聞いたが、どうやら普通のマンションらしい。ここ最近、アパートや住居を改装したギャラリースペースは珍しくないが、インターホンを押すとオートロックを解除してもらうというシステムや、ドアを開けると思わず靴を脱ぎたくなるような玄関はギャラリーというより個人のお宅にお邪魔するような気分だった。

9階にあるギャラリースペースにあがると、壁面がコンクリート、そして大きな窓から海が広がっている。海が見えるギャラリーなんて、東京ではじめてかも。と思いつつ、まるで夢のなかで思いもよらぬ場所に行き着いてしまったような気分で玉野大介の作品の画面に釘付けになった。

玉野大介の作品は、以前からホームページで見ていた。ものすごい量の作品をアップロードしていて見応えがあり、その下に添えられた独り言のような語り、あるいは夢日記のようにも思えるプロットをじっくり読んでしまう。フランツ・カフカの肖像を描き続けるブログも見応えがあり、さまざまなバリエーションのカフカを見ることができておもしろい。もの静かで、どこか寂しいような、懐かしいような全体の雰囲気のなかに、吉田戦車が描く4コママンガのようなシュールな笑いが画面の端々に見える。ウェブサイト同様、いつの間にか玉野大介ワールドに没入してしまう感触を、実物を目の当たりにしても感じた。

Dscf4779_2 玉野の作品は、基本的には物語があり、それぞれの作品の様々な要素が緩やかにつながっている。謎を解く鍵のように、幾何学模様や小動物が繰り返し登場する。そしてその画面には、不自然な自然さというべき、ぎこちなさが漂っている。その洗練されたぎこちなさはバルテュスの作品を想起させる。登場人物が物憂げな面持ちで、バラバラの方向を向きながら、パリの街角で不自然なポーズで凍り付いているバルテュスの初期の作品。ただし謎に満ちた画面が見るものを悩ませるバルテュスの作品とは違い、玉野の作品は鑑賞者をくすりと笑わせる心地よさとユーモアがある。まだまだ夢の続きを見ていたい、そんな心持がする。

Dscf4781_3 そして、謎に満ちた物語は多数の作品のなかで同時並行的に進行中である。サイエンスフィクションを思わせる近未来的な世界が、日本の70年代の中流家庭の一室が、ヨーロッパの町並みのような遠い昔が、アメリカ映画の1シーンのような劇的なカットが、入り混じっており、奇妙な感覚が浮かんでは消えていくようだ。たとえば作品「黄色い鞄」では子どもの頃の記憶である黄色い鞄とガンジーが同じ画面に現れている。過去・現在・未来という時間の仕切りが取り払われているかのような迷路のような画面なのだ。

バルテュスやネオ・ラオホの作品に通ずる物語性や、何層かに存在する時間、登場人物が何をしているのか判断に困るような共通項に加え、日本の昔話や、シュールなマンガを想起させ、さらには日本の60-70年代の中流家庭を想起させるゆがんだ西洋的な感覚が複雑に構成されており、日本という場所と時代性を感じさせ、暗いのに鮮やかな色彩や巧みな構図にじわじわと引きこまれていった。

ただ、上下2段に同じサイズの作品がぎっしりと展示された空間構成は、窮屈とも思えた。作品の中にも見る場所がぎっしりと詰まっているため、頭が整理できず、何巡もして同じ絵のさまざまな要素を丹念に見ていたら、あっという間に40分くらいが過ぎていてしかもクタクタになってしまった。しかし、繰り返し登場するモチーフや似たような顔の人物を縦横に見ていくと、既視感とも思えるような、身体への馴染みができてくるから不思議だ。それが狙いでこの展示方法ならば、してやられたというしかないが、上段の作品を見続けていると首が痛くなることもあり、展示の構成は一考の余地があるのではと思った。

Dscf4785_2 玉野大介 展
2007年9月22日(土)~10月20日(土)
12:00-18:00
maru gallery
東京都港区海岸3-7-18-902(JR田町駅から徒歩15分)
Tel:03-5443-2284

words:水田紗弥子

2007-10-02 at 02:13 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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