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2007/08/28
清水悟 「いろ の ない うみ」
9月のはじめに取り壊しが決まっているアパートの一室で清水悟の展示が開催中だ。作家がもともとアトリエとして使用していた制作スペースを利用しての展示のため、炊事場やトイレやシャワーも、インスタレーションの一部として存在している。生活を垣間見ているような覗きの感覚も多少あるのだが、家具も殆ど取り払われ、壁紙も剥がされた部屋に佇むと、寂しくてセンチメンタルな気分になった。
清水は美術大学の空間デザイン学科を卒業した後、フリーでグラフィックデザインの仕事などを手がけながら、制作を続けてきた。今までも取り壊しが決まった校舎を使用したインスタレーションや、今回と同じくコーポサワモトでの「MILK DRAWING」展などが印象に残っている。清水は今回の展示に「いろ の ない うみ」というタイトルを付け、アパートの一室を海のような、木漏れ日が差し込んでいるような空間に仕立てあげている。壁面に設置された版の作品は、生まれた日の新聞をモチーフにしたという。身近にある素材で、子どもの遊びのような技法で版を作っているらしいのだが、画面上のしみや汚れを含め、制御しきれていない線にも魅力を感じる。版そのものは実は、新聞を独自の技法でなぞった版と、それをアパートの室内の窓の模様と合わせてできている単純な作品だ。彼の内面から出てきた線や奇抜なアイディアは画面には表れず、むしろ自分を抑えて制作している。それでも、清水の作品には彼自身がよく表れていてそれは個人的な思い出と結びついている。
版作品が、なぜ生まれた日の新聞をモチーフにしているかは、ぜひ、引き出しの中の文章をそっと読んでほしい。彼の個人的な父親への思い出や、寂寥を感じた個人的な風景が、展示空間である制作スペースに感傷的すぎるほどに重なっていることがわかる。多くの人はこの部屋の中に入り、ものさびしい気持ちを引きずってこの部屋を出るとき、映画か小説の中に入ったような感覚を持つだろうと思う。いくつかの意味が重なる「海」に引きずられながら、築何十年かのこのアパートが来月にはもう存在しないことを思うと、物語の中にいる気がしてしまった。
清水の作品は、その場所と個人的な思い出が、今回よりももっと複雑化し、たくさんの意味を持ち、また鑑賞者も多様な意味を見出せたら、センチメンタルだけに引きずられず作品を味わえるのではないかと感じた。おみやげのA5版のDMは卒業証書のようでもあり、お別れの意味が強い切ない展示だったが、彼の中の「海」が広がりを持って次の空間につながる始まりの意味を持つ展示でもあってほしい。
清水悟「いろ の ない うみ」
2007年8月24日(金)~30日(木)
11時~20時
東京都港区北青山2-10-26 コーポサワモト102
地下鉄銀座線外苑前駅出口3より徒歩5分
ギャラリーハウスMAYA左隣駐車場奥入る
words:水田紗弥子
2007-08-28 at 02:13 午前 in 展覧会レポート | Permalink
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