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2007/08/28

ジングウーア サウンド・ギャラリー

ベルリンから、かないみきさんの8月のレポートです。

“singuhr - hörgalerie” ジングウーア サウンド・ギャラリー

Singuhr_1 singuhrとは、ドイツ語の singen (歌う) と Uhr (時計・時) が組み合わされた造語だ。その昔、時を知らせる教会の鐘の音が、歌声のように聞こえたことが由来となっている。ミッテ地区にあるパロヒアル教会、通称ジン グウーア教会の中に、ジングウーア サウンド・ギャラリーがオープンしたのは1996年のこと。第二次大戦中に爆撃を受けたこの建物は、教会とギャラリー という二足のわらじを履いて、息を吹き返した。「美術」と「音楽」の境界を越えてゆくサウンド・アートは、いまだにアートとして、観客に定着していないよ うにも見られるが、このギャラリーはすでに、10年もの間「サウンド」と「パブリック」をテーマにプロジェクトを続け、その先駆者から若手や学生までを、 幅広く紹介している。これまで、鈴木昭男やカールステン・ニコライ、ミキ・ユイらも、そこで作品を発表してきた。

Singuhr_2 しかし、2007年6月、ギャラリーはプレンツラウアーベルク地区にある旧地下貯水池へと、拠点を移す。教会コミュニティーとの不毛な議論の末、そこから立ち退くこととなったのだ。
この旧地下貯水池では、地域と密着した文化的な再利用が以前から盛んで、展覧会の他にも、コンサートや演劇などが行われている。大小2カ所の貯水池は、19世紀後半に建てられ、1914年に閉鎖されたのち、改築され、現在に至るまで様々な用途で使われてきた。魚の冷蔵倉庫、ゴミ収集所、また、ナチ体制下では、強制
収容所にもなっていた歴史的な建物である。

Edwin van der Heide   "Sound Modulated Light" (2007)  © Roman März

Singuhr_3_2 今月から始まった展示は、大貯水池でオランダ出身のエドウィン・ファン・デル・ハイデ、小貯水池では、ザール造形芸術大学のクリスティーナ・クービッシュ教授に師事する学生たちによる、サウンド・インスタレーションだ。
大量の水を貯める目的でつくられた暗く冷たい円形の空間が、およそ150年の時を経て、こうして人の中に眠っている感覚を呼び起こすような、アートによって満たされる空間となって今、ここに在る。そこに奇跡すら感じられた。歴史的背景がもたらすそのアウラが、サウンド・アートという未知なる表現と相俟って、このギャラリーを訪れたことは、時空を超えた旅のようでもあった。

Edwin van der Heide   "Sound Modulated Light" (2007)  © Roman März
入口で渡されたヘッドフォンを着用し、小さな器械を手に暗闇の中を進む。外側の仕切られた空間には、その壁に等間隔でライトがいくつも並び、器械のライトをそこへ近づけると、電子音が聴こえる。距離やボリュームを変えることで、その音も変動し、全てのライトが異なる音を持つ。

Singuhr_4ジングウーア サウンド・ギャラリーの次回プロジェクトは、ニューヨーク在住の作家、マイケル・J・シューマッハによる“LIVING ROOM PIECE”。展示場所はベルリンの一般住宅、すなわち誰かが生活している空間である。期間中は1日24時間パブリックに開かれ、部屋の中に、サウンドが仕掛けられる予定だ。また、国内外でのシンポジウムや、それらをまとめたカタログも制作している。マーケットがほとんど存在しないため、資金のやり繰りには苦心し、メディア関係者に告知の依頼で問い合わせると、今でも「ビジュアル・アート」だ、「ミュージック」だ、いや「パフォーマンス」だと、いくつかのジャンルに送られると主催者は笑う。

Edwin van der Heide  "The Speed of Sound"  © Roman März
いったん入口へ戻り、ヘッドフォンと器械を返すと、次は懐中電灯が渡された。それを手に、さらに暗闇の中を突き進む。足下に取り付けられているライトと、そこに取り付けられているマイクロフォンによって、自分の出す音がその円形の空間を走り、伝える。


Singuhr_5_2 この旧地下貯水池を拠点としながら、これからも異なる空間で、サウンド・アートの自在な可能性を謳歌して欲しい。

Students from HBK Saar  "Archipel"  © Roman März
学生たちによるグループ・プロジェクト。いくつのもスピーカーによって、空間に音の島を出現させている。小さな音たちが交わり遊ぶようだ。

Words: かないみき

2007-08-28 at 05:14 午後 in ワールド・レポート | Permalink

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