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2007/08/03
横内賢太郎 新作展
天性のカラリストであり、職人的な技巧派であるということではアンディ・ウォーホルを想起させないではない。またステイニングという技法を考慮に入れるな らなおさらアメリカ的な資質がそこで語られるべきなのかもしれないが、としても彼をアメリカ的な文脈によって語ることはおそらく正しくない。
「Book - LEMP 781」
2007
綿サテンに染料、メディウム
61 x 50.7 cm
想起されるべきはむしろステイニングに遥かに先駆け、実践されていたたらし込みという技法である。かつては伊藤若冲がこれを実践し、また近代では村上華岳が似たような技法を用いている。その彼らの画面にときを隔てて共通しているのは、無数の線が画面を這うように増殖する様だった。 特に、華岳の驚くべき主題の一貫性はその技法的配慮に支えられたものだとしても間違いではない。それは、いうなれば山裾を縫うように置かれた線が一枚の絵をこえて保存、複製される事態である。こうして絵画は次の絵画へと転写され、複製され連続性を加味されていくのであり、山というありふれた画題がおそるべきバリエーションをつくりだしてゆく根拠となるのである。それゆえ華岳の絵画のたらし込みの線描は、固有の時と場所とに帰属し固着してゆく感覚がきわめて希薄であり、華岳の作品を、当時の油絵を含む一連の肉筆絵画の場所と時との固有性——それは実存と呼ばれる——から遥かに遠い地点に追いやることを可能にしたのである。その意味で華岳は絵画が順次複製される自動的な生産そのものを主題としていたのかも知れない。
横内賢太郎は、ステイニングという技法に華岳的な複製の問題を直感的に把握することのできた希有な作家である。彼はオークションカタログの写真を画面に転写していくことを作品制作の作業として課している。そこで選ばれるのは中国陶器を思わせる装飾性の強いものであり、その表面の装飾までがなぞられ、描かれていく。
こうして彼が装飾の問題に取り組み、そのかたわらで写真からの転写という行為を持続させていることはなんら矛盾したものではないことは特記すべきだろう。装飾とは複製、保存されるがゆえに装飾でありえたのであり、むしろ装飾は、なぜそれは持続されるのかという疑問によってひとつの領域足り得てきたからである(それにたいする様々な学説が提出されていることからもそれは窺える)。それゆえに写真を転写するという行為は、それ自体装飾の本質に根ざすものであった。彼は写真という装置に内在する反復性によって、装飾をきわめて近代的な装置としたのである。つまり彼の絵画は装飾を写し取る行為によって装飾的なのではなく、写真を写し取るという行為によっても装飾的なのである。
しかし、そのカラーリングは写真の元の対象から離れて自在であり、写し取られた部分とそうでない部分とはそのカラーリングによって、また彼のステイニングを操作する際の卓越した手技によって、画面全体に解消されていく。写真から移され、あるいは写された装飾は、やはり面的なものが思い起こされるステイニングというよりは線描的であり、それゆえにたらし込みと呼ばれるべきなのだろう。
もっとも、彼があくまでこの技法に固執するのは、画面全体にもたらされる等質性、均衡にこそある。油絵が描かれる過程でその美徳とされてきた層の概念はこれらの絵画では否定されている(が、実際に層をなしていないというわけではない)。伝統的な絵画に対し、遥かに平面的なポロックでさえ、それを抜け出ることはなかった。その逆に横内の画面から受けるのは、まるでその布地の裏面から色彩が溢れ出る感覚である。実際若冲もまた絹本というメディウムの特性を生かし、画面の背後から顔料をおくことさえしたのだった。
サテン地に染料、メディウム
33.8 x 33.8 cm
横内が若冲のように画面の背後から絵の具をおくことはないとしても、彼がサテンという布地を木枠に張りキャンバスとしていることはそのことを思い起こさせないではない。つまりサテンは極薄の素材であるがゆえに、顔料の暴力的な横溢に対する危うさはいっそう強まるのである。したがって彼は絵画を生産することがある種の暴力の渦に身を巻き込むことであることを知る人であり、そしてその点において横内の絵画は、工芸的な生産原理に依って自立しようとする状況的な諸傾向とは一線を画している。
※ちなみにKenji Taki Gallery /名古屋で横内賢太郎と手塚愛子の展示が同時開催されている。(7月28日〜9月15日、8月9日から8月17日まで夏期休廊)手塚愛子もまた、単なる様式概念をこえて装飾の問題に取り組む現代作家である。機会が許せばぜひ足を運んでほしい。
横内賢太郎 新作展
7月5日(木)〜8月4日(土)
Kenji Taki Gallery /東京
東京都新宿区西新宿3-18-2-102
12:00-19:00 日月祝休廊
Tel:03-3378-6051
Words: 沢山遼
2007-08-03 at 11:13 午前 in 展覧会レポート | Permalink
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