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2007/07/18
竹内翔 Fool for the City
今年(第10回)のTARO賞に入選し、ドローイングやペインティングのインスタレーションを行った竹内翔さんの個展が、吉祥寺のギャラリー惺(さとる)で行われている。30号~50号ほどの作品を中心に構成された展示だが、ところどころにノートの切れ端やレシートの裏に描かれたドローイングも展示してあり、ギャラリーの奥まった半畳ほどのスペースは、作家の部屋かアトリエの一角を覗き見ているような気分になる。
竹内のステートメントに「作品で感情の記憶を伝えたい」、また、ギャラリーからのコメントに「記憶の中にある都市の風景やシーンがテーマ」とあるとおり、作品にはどこなのかわからない、どこにでもある街のどこかの風景が描かれている。東京は広くて、どこに行っても似たようなビルがあり、似たような陸橋がかかっている。表面的にはおんなじに見えるアパート、見たことのあるような公園…、どこに行っても本当はどこにも行けないような、閉塞感と安心感がある。
彼の作品の、そんなどこでもない場所に描かれる感情は、時間や場所から切り離された存在のものだ。例えば、台風のときに感じる空間から切り離されたような孤独な気持ち、ざわざわした地下鉄の構内で感じる物寂しさ、蒸し暑いのにひんやりした夏の夕方の公園、歩道橋のうえから走る車を見下ろすときのしんとした感情、なぜか孤独でどこにいるのかわからなくなってしまうような一瞬を思い起こしてしまう。作品に登場する、風に髪を棚引かせる女の子や、公園でじっとうずくまる男の子たちは、その場所でしか味わえない空気やにおいを感じながら、どこでもない場所にいることに希望と絶望を同時に感じているように思う。
どこに行ってもおんなじだなぁと思う閉塞感のなかでも、感情を刺激してくれるものは、山ほどある。マンガや音楽、それからもっと雑多なもの、くだらないテレビのニュースや変なキャラクターのTシャツも、想像力のとっかかりになって、積み重なってゆく。今回の個展のタイトル「Fool for the City」もマンガのタイトルの引用だが、他にもところどころに音楽やマンガ(あるいは小説もあるかもしれない)の影響が垣間見られる。そんな身の回りのものの集積と、空虚な感情が同じレベルで描かれ、何枚もの作品がゆるやかにつながっていく。絵を描いたり、ものを創ったりすることが特別な行為であるということを、すり抜けるように些少で軽やかなものを大切にしていることがわかる。タバコの煙や、街を抜けていく風のように、目に見えないほど軽やかなものを丁寧に追うことで平坦な場所や感情に起伏を持たせていることが彼の作品の大きな特徴だろう。
恐らく近しい年齢ということもあるのだろうか、マンガや音楽、見てきたものや引っかかる風景にぴったりとした共感を覚えてしまうが、彼の良い意味での「個人主義」が幅広い年齢層にまで届くだろうか。今後も竹内の作品が、描かれる風のように少しずつ姿を変え、どこまでも拡がっていって、同世代やアートファンだけでない層にもじんわり、しなやかに受け止めてもらえたらいいと思う。
2007年7月7日(土)~ 29日(日)
ギャラリー惺
東京都武蔵野市御殿山1-2-6B1F)
11:00 - 19:00 最終日-17:00 火・水休廊
Tel.0422-41-0435
words:水田紗弥子
2007-07-18 at 01:38 午前 in 展覧会レポート | Permalink
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コメント
久しぶりに作品見て色彩の変わり様にびっくりした!昔はもっと暗い感じだったのに。
これからも夢を追って頑張って!
投稿情報: 竹内潤 | 2007/07/24 4:59:00