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2007/07/23
インタビュー:PRO qm
ベルリンから、かないみきさんの7月のレポートです。
1999年のオープン以来、ベルリンのアートシーンの重要な拠点のひとつであるPRO qm(プロ・キューエム)は、3人のアーティスト(Katja Reichard / Jesko Fezer / Axel Wieder) によって共同運営される書店。建築やデザイン、アートをはじめ、都市や政治、経済などの専門書を扱い、国内外の雑誌も豊富に取り揃えている。大きな窓ガラスから差し込む光、白い壁、天井の高い開放的な店内には、他では見られない個性的な本が並ぶ。いつでもふらりと立ち寄りたくなる、そんな空間には、さまざまな出会いがある。経営者のひとり、ドクメンタ12での仕事から戻ったばかりのカティヤさんにインタビューをした。
PRO qmの外観
—どのようなきっかけで、PRO qmを立ち上げたのですか?
私たち3人は、それぞれがアーティストとして活動していた90年代の初め頃に出会いました。ベルリンの壁崩壊後は、分断されていた東西ベルリンを再構築するための建設工事がいたるところで行われ、それと同時に、多くのアーティストがベルリンへやってきて、都市についての考察を始めていました。そこには、とてもオープンな社会構造を提示できる可能性がありました。都市に関わる展覧会や討論会がベルリンのあちらこちらで開かれました。そんな時代に私たちは出会い、そうした分野の本をたくさん読みあさっていました。そして、90年代の終わり頃、自分たちの専門書店をオープンするのはどうだろう、ということになったのです。書店という機能の他に、パブリック・スペースであり、さまざまな人を巻き込むような討論会やプレゼンテーションを行う生産的な「場」にしようと話し合いました。
私は美大を卒業して、その時の自主的なクラスを通じて知り合った仲間たちと、ミッテ地区にスペースをもっていました。これは90年代のベルリンの特質で、都市のど真ん中に、とても安い家賃でスペースを借り、独立した個人のプロジェクトを進めることができました。この書店を始める前に持っていたのは、ギャラリーのようなもので、友人たちと毎週そこで開くDienstagsbar(火曜日のバー)を資金源として活動していました。そして、イェスコとアクセルとともに、この書店をオープンさせました。
以後、3人での書店経営は順調ですが、私たちは経済的にこの書店だけに頼ることはしたくないので、それぞれが別に仕事も持っています。イェスコは建築を教えているし、アクセルは美術館のキュレーター、私は映画の制作をしています。この書店をオープンさせたことで、「いつもそこに在る」場を持てたことは、気に入っています。もしも、アート・プロジェクトだけで生計を立てなければならないとしたら、それはもう大変だったと思うのです。常に次のプロジェクトのために資金繰りをしなければならない。だから、ひとつの保証された側面と、もうひとつの私自身のプロジェクトを両立させることは大切だと思っています。
ー今年に入ってから、書店が移転しましたが、その経緯について教えてください。
もっと広い場所を持ちたかったというのが、ひとつの理由です。でも、都市問題はPRO qmにとっ ては主な関心事なので、その中心に留まりたいということもありました。近頃、ギャラリーなどが、クロイツベルクやヴェディング地区にオープンしていますが、私たちは以前のスペースからも近い、このミッテを選びました。ここは、最も変化のある地区で、地価の高騰に伴い、別の地区へと離れていく住民やスタジオを引き払うアーティストも多いのですが、実は、私たちのような「クール」な専門書店そのものが、この状況を生み出した一因でもあります。ですから、これからもここにいながら、見ていたい、その一員でありたいという考えがありました。1999年のオープン時には、同じ通りには人は少なく、店もほとんどありませんでしたが、最近ではファッション関係の店やレストランで賑わっています。家賃は当時のおよそ4倍にまで跳ね上がりました。この成り行きを柔軟に捉え、移転を考えている時に、いくつものアート活動を支持している今の家主との出会いがありました。
—書店と連動した活動には、どのようなものがありますか?
新刊のプレゼンテーションの他に、レクチャーやコンサート、パフォーマンスなどを行っていますが、2000年に、「Ars Viva」というアート・プライズを受賞したことは、大きな出来事です。ここをオープンさせた翌年のことでした。これは、ドイツ国内の企業の出資により文化支援をする団体が、毎年、期待の新人アーティスト3、4人へ贈るものです。審査員たちのあいだでは、「書店をアート・プロジェクトと認められるのか?」といった議論が巻き起こったようですが、店とプロジェクトの境界についてのその内容は、とても興味深いものでした。 私たちPRO qmは、建築や都市計画、展覧会における「参加」をテーマにリサーチを重ね、国内の3カ所の美術館で開催された展示では、それをインスタレーションというか
たちで表しました。
また、この団体を通して、それまでにはなかった、エリート・ビジネスマンたちとの出会いが面白かったですね。賞を得て認知度も上がり、美術館のエントランス・ホールのデザインを任されることもありました。以来、建築やデザインのプロジェクトもこなしています。
—ドクメンタ12の書店としての参加はいかがですか?
1968年以来、ドクメンタでの書店のオーガナイズは、有名な出版社でもある「ヴァルター・ケーニッヒ」が常に行っていました。しかし、今年に入ってから、突然この仕事のオファーがドクメンタ本部から舞い込みました。私たちPRO qmが向き合っている問題と、今回のドクメンタのテーマが一致することと、世代交代が目的だったようです。初めは、こんな大役をできるのかと不安でしたが、挑戦することに決めました。私たちと、クロイツベルク地区にある「b_books」が共同でオーガナイズしました。約3ヶ月という短期間でのリサーチ、しかも、ものすごい数のアーティストです。中には何の出版物もなかったり、Googleで検索しても名前すら出てこないアーティストがいました。とにかく、ありとあらゆる人たちとコンタクトをとりました。
オープニングの会場でも、たくさんの人との出会いがあり、本当に楽しかった。特に、その数日間には、世界各国からのキュレーターがやってきて、本やDVDも何十冊といっぺんに売れました。
—これからの活動は、どうなって行くのでしょうか?
次のステップは、オンライン・ショップです。ドクメンタのためのリサーチにより、たくさんの素晴らしい本や雑誌を取り寄せたので、引き続き、それらを取り扱いたいと考えています。ベルリン以外の街や国からやって来るお客さんが、どうしてオンライン・ショップがないのかとよく聞くんです。それから、「ミュンヘンやハンブルクにもPRO qmをオープンさせないの?」とも聞かれます。でも私たちは、この書店をフランチャイズしないと決めています。ですから、それぞれの地域で、独自のコンセプトを持つ専門書店が現れてくればいいなと思うんです。私たちが欲しいのは、そういった書店によるネットワークの存在ですね。
—最後に、カティヤさんの最近のオススメ書籍を教えてください。
ニューヨークを拠点に、中東のアート/文化を取り上げるマガジン、「BIDOUN」は今、ものすごく売れていますね。つい先日ここでラウンチを行った「Die Planung」は、ふたつの都市、ベルリンとブダペストを拠点とする「未来」からのマガジン・プロジェクトです。「Nieves」は、チューリッヒを拠点とするインディペンデントな出版社。エディションつきの、小さなハンド・メイドによるアーティスト・ブックを多く出版しています。他には、 トーマス・ヒルシュホーンのカタログ、「Musée précaire Albinet」や、理論書では、「Institutional Critique and After」などでしょうか。そしてもちろん、ドクメンタ12やミュンスター彫刻プロジェクトのカタログもよく出ていますね。
およそ1時間にも及ぶインタビューで、カティヤさんは過去を振り返りながら、しかしそれを昨日のことのように、エネルギッシュに語ってくれた。生まれも育ちもベルリン、生粋のベルリーナーである彼女が、激動の90年代にここで培ったであろうパワーを感じる。PRO qmのさらなる挑戦を期待しつつ、アーティストとしての彼ら3人、それぞれの個人プロジェクトにも興味がわく。
PRO qm
Almstadtstr. 48-50
10119 Berlin
月ー金 12−20時
土 12−18時
2007-07-23 at 09:10 午後 in ワールド・レポート | Permalink
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