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2007/01/17

ヨーゼフ・ホフマンのインテリアデザイン

NYから塩崎浩子さんの今月のレポートが届きました。
Neue1_1Neue Galerie(ノイエギャラリー)は、20世紀初頭のドイツとオーストリア美術を展示している小さな個性派美術館である。メトロポリタン美術館から少し北にあり、一見高級邸宅風で美術館には見えないかもしれない。重い扉を開け、中央の大きな螺旋階段を上ると展示室があり、クリムトやエゴン・シーレなどの作品が常設展示されている。

現在開催されている展覧会は、手工芸家集団ウィーン工房の主宰者、オーストリアの建築家ヨーゼフ・ホフマンのインテリアデザインを集めた「JOSEF HOFFMANN INTERIORS,1902-1913」(〜2月26日)。ウィーン分離派の主要メンバーだったホフマンは1903年にウィーン工房を設立。職人による手工芸に芸術のあり方を求めた英国のアーツ・アンド・クラフツ運動に影響を受け、デザイナーと職人とが協力し、手仕事による日用品の質の向上を理想に掲げた。代表作はブリュッセルにあるストックレー邸の室内装飾で、同じくウィーン分離派の主要メンバーであるクリムトが食堂の壁画を手掛けている。


この展覧会では、彼が手掛けた住宅のダイニングや寝室など4つの部屋を、建築設計や家具はもちろん、彼のデザインした照明や織物、壁紙、食器に至るまで忠実に再現している。女の子の寝室、家族の食堂、大きな窓のある寝室、スイス人の画家の部屋・・・どの部屋も色や形態が統合されていて、派手な装飾やごてごてした家具類は見当たらない。それでいて味気なく見えないのは、上質のものだけで埋め尽くされているからだろう。家具や調度は直線的・幾何学的なデザインが特徴で、黒に近いダークチョコレート色を多く用いてどっしりした風格を与えている。その風格とコントラストをなすように、壁紙やカーテン、ベッドカバー、カーペットや椅子のファブリックなどには、グラフィカルなパターンや植物や花の曲線的なモチーフが使われている。重厚なのに柔らかい、そんな印象である。

20世紀初頭のウィーンは、それまでの贅沢で優雅なデザインから日常生活に根差した合理的なデザインへの急速な転換期にあった。その中で開花したウィーン工房の活動は、実用性を追い求めながらも、新しい美を大衆に広めようという志を揺るがせなかった。しかしウィーン工房が主に富裕層の人達を顧客にしていたことからも分かるように、一般大衆にとっては「美しく上質な日用品を生活に取り入れる」余裕はあまりなかったようである。精神と物質両面の贅沢を持ち合わせた人々のパトロネージュのもとでウィーン工房は発展したものの、その後経済難に陥り、1932年にその活動を終えている。

素材を選び抜き、職人が技巧を極めて作り上げた完成度の高い作品を眺めていると、手の届かない崇高ささえ感じてしまう。しかしホフマンの理想とはそうした美を日常生活に取り入れることだったわけで、今、私がそれらを美術館の展示としてうっとりと見愡れていることは、彼の高邁な理想を裏切っていることになるのかもしれない。


Words: 塩崎浩子

2007-01-17 at 02:04 午後 in ワールド・レポート | Permalink

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