« バレエ・プレルジョカージュ「N」 | メイン | Fancies 高橋 友 展 »

2006/02/04

本日最終日です。上須元徳展

Wks「時空旅行者」


上須元徳展
Gallery wks.
2006年1月16日(月) 〜 2月4日(土)
11:00〜19:00

本日が最終日の上須元徳展。アクリルで描かれたモノクロの絵画が並ぶ。風景や人物の肖像といった写実的な絵画はどれもなんとなく奇妙な印象を与えるが、会場に入って入り口に一番近い作品の前に立つとすぐに気がつくだろう、白黒反転するネガフィルムをそのまま拡大したような絵画で、そのタイトルから沖縄の海での場面であることが解るが、場面に表された二人の人物のうち、ひとりの頭部はない。それ以外の要素は写真を写し取ったようにあまりにも自然なので、ことさらブラックユーモアが示されているように思えた。

他の展示作品もトリッキーな要素をもっているのかと少し期待して、会場を見渡し、目についた「時空旅行者」という大きな作品。戦時中の写真を元にしているのだろうか。だだっ広い野営地のような広場に座り込む大勢の兵士達の姿が描かれていた。画面の奥の方にうっすらと男女の姿を確認できる。よく見ると、現代的なファッションで女性の方は携帯電話を携えている。離れた位置から見るとこの二人の人物もその存在感が白黒の色調に馴染んで違和感がないほど潜んでしまうところが面白い。

会場の一番奥に展示された、地下鉄のホームで新聞を拡げる人物の後ろ姿が描かれた作品は、腰の部分がスライドして上半身と下半身がズレている。他の作品にもトリッキーな要素が隠されているのかと順番に近づいてみたが、猫を抱く中年の女性の「シャム猫」、道路の風景やアパートなどの建物、『扇風機』といった作品からは、奇妙な要素は見当たらない。ごく日常的な風景やものごとを描いているようだった。しかし、きっと何かが潜んでいるに違いないという期待はまだ捨て切れない。

聞いてみると上須さんは、特にトリッキーな要素を意識して作品にそれらを表しているわけではなかった。現実の物事が、そのような奇妙なイメージで目に映る場合があるのだという。画面に表わされた光景は上須さん自身が実際リアルに感じた光景を示すものであり、夢のようなリアリティだったのだ。目が覚めると消えてしまう夢だが、夢で見たものを現実の行為に移していく場合もあるし、そもそも夢は無意識の現実でもある。日常の光景を少しだけ変容させる無意識が、画面にストレートに表現されていたのだ。

ギャラリーのホームページに、「あるものは加えられ、あるものは除かれ、彼の変換を免れるものはない。」というコメントがあった。加えられたものを探すのは簡単だが、それぞれの生活体験が違う以上、作家によって除かれたものを見つけ出すことは難しい。会場では判らなかったが、画面から除かれたものとはどんなものだったのかと想像が巡って、やはり期待に似た感情を引き摺る個展であった。
上須さんは1999年に芸術大学を卒業してからもずっと制作を続けていたというが、個展は今回がはじめてだという。納得のいくまで、自らの作品と向き合っていたいという思いから、個展の開催までに長い時間がかかったのだという。今後制作される作品が、どのように展開するのか楽しみなアーティストだ。 words: 酒井千穂
 

Wks2会場風景

2006-02-04 at 02:55 午後 in 展覧会レポート | Permalink

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
https://www.typepad.com/services/trackback/6a014e885bb6e5970d015432c74276970c

Listed below are links to weblogs that reference 本日最終日です。上須元徳展:

コメント