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2005/03/28

VOCA展2005

「10年を過ぎて」

VOCA2005-hinokVOCA2005-nakagawatJPGVOCA2005-ishiroj左から日野之彦「あおむけ」「口に両手」中川トラヲ「風が吹いて そして すべて終わりさ」居城純子「N34.21.29 E135.52.13」

 VOCA(Vision of Contemporary Art)展とは、絵画などの平面作品を対象に、全国の学芸員、ジャーナリスト、研究者ら約40人が、40歳以下の作家各1人を推薦する展覧会。第一生命保険相互会社の文化支援として1994年から続けられており、大賞作品は賞金のみならず、買い上げられ、本社のロビーやギャラリーで展覧会が行われる。今年は、VOCA賞に日野之彦、奨励賞に、ART遊覧のライターでもある原久子の推薦作家(!)中川トラヲ、居城純子、佳作賞に羽毛田優子、手塚愛子、大原美術館賞に鯉江真紀子、府中市美術館賞に田中みぎわが選ばれた。

 先日、中川トラヲと居城純子のトークを聞いた。人物一人を手前に描いた大賞作に対し、二人は、中央(道の行く手)に焦点がありつつも横に拡散・拡張する風景画。価値観の多様化を反映しているのか、全体的にも、中心のない、画面のなかの要素が等価値に配されている作品が多めだ。

 中川・居城とも抽象画を先に描いていたという。中川は「絵に何か描きたいテーマやメッセージはなく、具体的なものを描いていても象徴的な意味はないんです。見る人それぞれに感じてもらえれば」と語る。現れた絵が最初の一歩で、あとはさまざまな人や社会にもまれながら絵がひとり歩きしていくような感じだろうか。描くときもあらかじめ目的を決めずに、例えば光が差し込んだ感じ、雑誌やマンガのおもしろい絵など、生活のなかで得るインスピレーションから色やかたちが生まれていく。居城は、撮った写真から全体を想定して描いていく。

 二人の作品に共通するのは、日本画の影響で、例えば屏風的な構図や余白、装飾的な図柄などが見られる(ちなみに中川本人は意識してないと言っていたが、中央の道のような川のような流れは、尾形光琳の「紅白梅図屏風」を連想する)。中川は「日本画の描法が歴史的につながっているのはマンガ」だと言っており、例えば余白の雲形の描き方はマンガの吹き出しにも似ている。また、居城でいえは「重力に逆らい、葉っぱからしぶきのように吹き上げている、ピンクの絵具の部分」など。二人ともデザイン的ともいえるピンク系の色をうまく使っている。また、中川の絵のタイトルは直接の意味ではないが、Tokyo No.1 Soul Setの曲名だそうだ。

 描き方は異なり、居城がキャンバスの布地を裏返しに張り、余白としてすっぽり抜かれた部分と描いた部分の際を強調するため、マスキングテープを貼ってきちんと描いていくのに対し(ささっと塗り残したような部分もある)、中川は今回特に、ペンでガガガッと描いたような思い切りの良い線を絵具で描いていて対照的。ただ、居城は、油彩画と同時に、線香などで絵を燃やす(余白をつくる、絵をなくす)実験的なプロジェクトも行っていて、別の大胆さを持っている。

 ところで、大賞の日野の作品。「世界」を目の前にして、受け入れるでも抗うでもない、判断手前にいる感じはわかるが、何かいやな絵だなあと思う。しかし、瞳や口の空洞に吸い込まれる感じ。浮遊館と緊迫感、人物の影とともに奥に引っ張る力もある。希薄な人物像を絵としては強い集中度で描いているようには感じた。「カワイイ」に対抗的な部分どう出るか。

 全体の作品は低調という意見もあるが、これまで関心の薄かった人が今年は面白いという声も聞く。私も一時より盛り返していると思う。ただ、時代に関係なく意味付けのない作品、あるいは音を楽しむように絵だけ楽しむ作品はそれでいいと思うのだが、審査員が「時代を映しているアート」という選票をするならば、最近の日本映画が頑張って現状のその先を描いていることに比べて、映すだけでいいのかという気がやはりしてしまった。


2005年3月15日(火)〜30日(水)
上野の森美術館
10:00-17:00(入館は16:30まで)
会期中無休
TEL.03-3833-4191

words:白坂ゆり

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手塚愛子の個展が4月1日(金)〜26日(火)INAXギャラリーで開かれます。4月1日(金)18:00〜アーティスト・トークあり。


Fuji Art Net
毎日新聞のVOCA展レビュー
がでんこむのVOCA展レポート

2005-03-28 at 05:13 午前 in 展覧会レポート | Permalink

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