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2005/02/19

中田寛也展

「映画のような写真」

nakada1nakada3左:「innocence」より 右:「movie still」より

 元印刷工場をリノベーションして、2004年8月にオープンしたアーティストラン(作家自主運営)スペース、ART TRACE Gallery。作家24人で月に1万円ぐらいずつ払って運営し、ひと月に1人ペースで個展を行っているという。現在、開催中の「中田寛也展」は、映画のような写真の展示。被写体の眼鏡の男の子が、岡崎京子のマンガの登場人物みたいだ。

 繊細そうな、ある種普通の3人の男の子が林に来るシーン、電車での別れ際やいさかい、目覚めのシーンなどの写真が断片的に連なっている。手をつないでいる場面もあるが、子供の頃の親愛的な感情にも見える。3人の立ち位置からも微妙な関係性が想像される。瓶に差した植物は、何か約束の証なのか。
 根底に喪失感を持つ優しい感受性。若い男子かわいさを突かれているのも自分でも否めないけど(トホホ)。過去作のファイルでも、共感をつく男子の役者選びがうまい。
 写真は、映画を撮るようにストーリーをつくり、絵コンテを描いて撮るようだ。動き続けるカメラの前で演技するのと、シャッターが切られるカメラの前で演技する違いもあるように思う。映画や小説では物語の解釈に幅ができるが、写真には言葉がないので、観客が断片からストーリーづくりに加担することになる。これが動画だと、「なんか前衛的だわ」とか、シュールにも見えがちだが、写真だと素直に見られるようになってきた。枚数と展示の空間の取り方にもよるが、壁の展示と同じものをファイリングして椅子に置いてあったし、写真1点でも成立しているので、その辺も自覚的なのだろう。
 マンガと映画の狭間というか。映画の一場面でガッと沸き上がる、言い知れない新しい感情。そうした見る側とのコミュニケーションが、写真では観客の時間進行で間(ま)をもって起こってくる。反復しても連続しなくてもかまわない。
 他のファイルにあった、ロゴの入ったリュックがさまざまな人に背負われていく写真もおもしろかった。
 

中田寛也展
2005年2月1日(火)〜27日(日)
ART TRACE Gallery
(都営大江戸線両国駅A5出口より徒歩5分、緑小学校裏)
11:00〜19:00
月休
TEL.090-3908-7152

*写真を映画のように撮るという意味では、石川卓磨の展示がありました。

words:白坂ゆり

2005-02-19 at 02:41 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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コメント

なかたです。
今回取り上げてもらってありがとうございました。

マンガと映画のというコメントもある通り、今まで絵画や写真をやっているにも関わらず自分にかなり影響を与え続けているものがマンガと映画ですね。

最近美術の世界でも映像作品で面白いものが多いですね。
エイヤ・リーサ・アハティラ、ルナ・イスラム、Oliver Payne and Nick Relphなんかにやられちゃいました。
この辺も大いに刺激を受けました。

石川さんの作品のアプローチが自分と似ているので驚きました。
題材が違うだけできっと目指すところが近いのだろうと勝手に思ってます。

投稿情報: なかた | 2005/02/24 21:39:00

観て来ました!!
すごくよかったです。
3人の間隔、写真の間隔、展示の間隔が
どう表現したらいいのか分らないけど
なんだか居心地よくて。

中田さん、これからもがんばってください!

管理人さん、いつもすてきな展覧会情報をありがとうございます!

投稿情報: chise | 2005/02/24 23:20:02

chise さんありがとうございます。
とてもはげみになります!

3月17日発売のBT美術手帖4月号に今回の展示のレビューがのります。

投稿情報: なかた | 2005/02/26 18:49:36

アート・トレイスのバンと申します。アート・トレイス・ギャラリーは参加者共同出資型のギャラリーです。 一般の賃貸物件を共同で借りて、改装・所有し、そこに2年間で計24名の作家(参加者)が各一ヵ月間展示を行なっています。 

次回3月の展示は倉持 幸子(クラモチ サチコ)展で3月1日(火)~3月30日(水)まで開催です。3月1日のオープニング・パーティーも18:00から行いますので是非ご来場下さい。

また、展示以外にも、林道郎氏著の「絵画は二度死ぬあるいは死なない」シリーズの出版・販売、テレピン・リンシードの販売、セミナーや批評家や作家による対談等も随時企画しておりますので、是非足を運んで下さい。 ちなみにアート・トレイスのホームページは、http://arttrace.org/
です。よろしくお願いします。

投稿情報: バン | 2005/02/27 1:07:59

中田さんの展覧会、SCAI THE BATHHOUSE でDM見つけて行ってよかったですよ。じわじわと反響があります。もっと早くにこのスペースを知ってればよかったなあ。ごめんなさい。以前に行われたものもホームページ見たら良さそうでした。ぜひともファイル閲覧棚をつくってください。テレピン油売っててびっくりしたなあ(笑)中田展は明日までなので、みなさん足をお運びください。わたしは3月も行きます!

投稿情報: shirasaka | 2005/02/27 2:54:15

このレヴューを読んで、コメントを書きたいと思いました。今回の中田さんの展覧会は、このレヴューの写真でしか見ていないのですが、白坂さんの考察は面白く、とても的確なのではないかと感じました。また、中田さんの写真というメディアに対する距離の取り方が、僕も非常に近親感を抱きました。僕にとっても、自分の作品を写真と映画の狭間、マンガと映画の狭間として考える事は有意義な事と思えて、今回のレヴューはとても嬉しいものでした。

 特に白坂さんのレヴューの中の“映画や小説では物語の解釈に幅ができるが、言葉がないので、観客が断片からストーリーづくりに加担することになる。これが動画だと、「なんか前衛的だわ」とか、シュールにも見えがちだが、写真だと素直に見られるようになってきた。”というところに強く共感させられました。

 僕の制作の中では“映画の一場面でガッと沸き上がる、言い知れない新しい感情。そうした見る側とのコミュニケーションが、写真では観客の時間進行で間(ま)をもって起こってくる。反復しても連続しなくてもかまわない。”というのは大きな課題になっています。それは写真が止まっているにもかかわらず、複雑な時間を作り出すという事がとてもおもしろい事だと感じているからです。
 また、複数の写真を使って一つの作品を作り出す事は、映画のような連続性が前提とされていない、そもそもつながりのないもの(写真)をつなげ合わすということ、つまり、鑑賞者が(自分も含め)本当は存在しないはずの存在を作品の中に見る/信じること、が大切な事だと感じるからだと考えています。

 最後にすみません、展覧会のお知らせをさせて下さい。
 経堂にあるアペルで3月12日から27日までファイルを展示をします。ここでの作品は、映画のパンフレットの写真を自分なりにトリミングして、それを写真集にする事によって、一つの物語を作っています。
 この作品で意図したところは、現代美術の常套句であるアプロプリエーションという所にあるのではなく、明らかにつながっていない様々な映画の場面や風景がいかにして繋がり、そして物語/時間が作れるかが重要です。
 そしてパンフレットの写真が持っている粒子の粗い印刷や、映っている人や、風景が一つ一つ完結した「間」を持ちながら、それが本になる事によって関係し合い、音楽のようなメロディーになり得ないか、そういった試みをしています。
 ちなみに、今回の作品は去年art&river bankで展示したものですが、それをあらためて完成させたものなので、内容が変わっています。ご高覧のほどよろしくお願いいたします。

投稿情報: 石川卓磨 | 2005/02/28 3:24:00

きょう石川さんのファイル見にアペル行きました。アペルも初体験だったのですが。
石川さんのみならず他の方々の作品見ていく中で、共感できる感性を持つ人々がいるんだと安心感を持つと同時に自分の在り方にもっと自覚的にならざるを得ない、といった心境です。
アペル2階で西島大介展していました。この方も初めて知ったのですが興味を持ち「凹村戦争」買いました。

投稿情報: なかた | 2005/03/13 0:54:47

なかたさん、アペル行ったのですね。私も行かなければ。いや、でもそうやって行動してくれるところがなかたさんのいいところだと思う。まだお会いできてないけど、なんかそう思います。BTの展評読みました。なんか八田政玄さんが参照されていて、(むしろ逆なんだけどーと前置きしながら)あらあらと思いました。ほんというと、ここで石川さんの記事を併せて出す時、少し迷いました。似てるとおもわれたらあまりよくないですもんね。でも、似てるわけではなくて、なにか探ろうとしていることが、見る側にとっていくつかの方向から考えさせられるということです。八田さんはもっと違うと思いますが。いずれにせよ、3人ともオルタナティブなスペースの作家だし。無理に傾向化したり、系統立てることはないし、それぞれ個別に見ているのですが、気になる動向がここらにはあるなあと思っています。

投稿情報: shirasaka | 2005/03/18 4:00:46

appelのtattakaです。まったく関係ないですが、ここに直接入力しようとすると文字化けしてしまい、うまく入力できません。そのため、textを別に打ってからコピーして持ってきます。デジタル/アナログの二分法では解けない不条理な不便がここにはあり、デジタル以降のローテクについて考えるところはありますが、写真/映画についても同様です。逆にシンプルになってしまうことへの忌避から辿々しい映像に自分は向かってしまうところがあるのですが、今度はぜひとも作品を拝見したいと思いました。今度appelにいらっしゃったら声かけてください(笑)。では

投稿情報: tattaka | 2005/03/25 14:37:41

tattakaさん、こんにちわ。tattakaさんのファイルもとても興味深かったのですよ。今度は勇気を出して声おかけしますよ!ちなみにうちのPCも文字化けしております。

白坂さん、フォロー(なのかな?)ありがとうございます。正直最初は、「なんだ、俺のやってることなんてもう誰かやってんのかい」と思いもしましたが。でもそういうことなんですよね。次の作品も作り始めてるのでまた見てください!

投稿情報: なかた | 2005/03/26 19:06:17

こんにちは、さきほど泉太郎個展についてコメントをした奥村です。そしてまた、BTになかたさんについて書かせてもらった者です(なおかつ、APPELでなかたさんとすれ違った者でもあります。なんかいろいろ重なってますね)。
似たことを考えてる人はいくらでもいるし、むしろそこでの差異を言葉にしていくことが大事だと思います。なかたさんについて書いた僕の文章がbestだとはもちろん思わないけど。僕が作家として考えてることややろうとしてることと共振する人がたくさんいて、けっこう「うちら似てるよね」って感じで話してるし、お互い刺激をうけて、いまの時点では似てるけどそこからどう道がわかれていくか、今自分を規定しているオリからどう出て行くか、意識的に考えます。なかたさんも書いてるけど、それって孤独感が薄まると同時にやらなきゃって自覚がでて、すごくいいと思いますです。長文すみません。ちなみに僕も凹村戦争買っちゃいました。appelでは、映像が面白かったです。

投稿情報: おくむら | 2005/03/26 23:53:13

今は感傷的な(という言葉は美しすぎますが)気分なので、この文章の客観性ははなはだしく疑わしいのですが、でも、appelがなんらかの媒介になり、出会わない人の交通が起きていることに、大袈裟に言えば涙を流しそうにもなります。
この言葉には多くの問題はありますが、言葉はアートにもなり得るのに、しばしば純粋さをもって人を傷つけもしますね。何を言ってるのかわかりにくくてすみません。最近、整合性のある文章には、なにか欺瞞を感じるのです。ですが、では非整合的な文章の可能性に期待できるかと言えばよくわかりません。
ただ、例えば石川卓磨さんや中田寛也さんのような作品の説明不可能性については、それが説明不可能であるということが言いたいのではないという意味で、原初的な感動はある気がするし、それは文章には(そうしたものはあるかもしれませんが)なかなか難しい作業な気がします。

投稿情報: tattaka | 2005/04/08 1:54:20

>共感をつく男子の役者選びがうまい。

自分もそう思いました。。
中高生の男子、中田さんしか撮れない被写体で表情を感じました。

投稿情報: 道 | 2005/04/26 15:19:52

道さん、コメントありがとうございます。
アートそのものとは別のことかもしれませんが、役者(登場人物)選びに無頓着な現代美術の作品も多いので、人として見るか絵としてみるか、そういうことを取っ払うにしても、必要かと思います。もちろん美男美女である必要は全然ない。
 ところで、言葉の仕事をしている以上、どんなにつたなくても、それを初めて読む人にもわかってもらえたり、気づいてもらえたり、あれってどういう意味かなあと共に思ってもらえるように、考え途中のことも言うようにしようといつも思っています。フリーライターになって7年8か月くらいですが、そのときすぐに言えなくても、あとでわかることもあるし、また言う機会が来ることもあります。これは読んでる人が以前言ってくれたんだけど、保留にするのとも自分ではちょっと違うつもりです。

投稿情報: shirasaka | 2005/04/26 23:32:34