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2003/10/14

野村嘉代・おのさやか 展

「響きあうふたつの感覚」


art191_04_1会場風景


■化粧をすると、たしかに気持ちが切り替わる。化粧は気持ちをき切り替えるためのスイッチだとも言える。化粧品店に並ぶ綺麗な色に惹かれて、その場で口紅や粉を顔につけてみることもある。それは化粧をしようと予定していた行為ではなく、まさに、この展覧会のリリースにあった「色に誘われる」ということだろう。

■大学内のギャラリーで開催されている野村嘉代さんとおのさやかさんの二人展は同じ大学院の学生である辻牧子さんが企画したもの。タイトルの「紅をさす」という言葉は、顔に色をほどこす、あるいは化粧をして気分を高める、といった化粧がもつ身体的行為と思考の関係を示すのと同時に、作品のジャンルや作風の違いだけでなくそれぞれの制作スタンスも対照的に見える二人の作家を結んでいる。

■会場に入るとまず、野村さんの作品がある。モチーフにした無花果がリズミカルに連なっている。三つの連作「seed」は種子が描かれ、赤と黒が混じりあった「under her skin」は暗闇で何かが燃えているようにも見える。野村さんは手全体をつかう方法で、絵具が乾くのを待たずに次の色を塗っていくのだという。色と色が微妙なバランスで混じり合い、線は躍動し、画面に深い奥行きがある。

■おのさんは、これまで老いをテーマにして自身の祖母の肖像を描き続けてきた。「わたし<と>わたしでないわたし」は、6枚の画面でひとつの作品のように見えるが、「我」と「吾」に分かれている一対の作品。「うつつ<と>うつつでない夢」は、合せ鏡のように左右が反転している。でもよく見ると、横になった老女の一方は目を閉じ、一方は目を開けている。日本画の手法で制作するおのさんは、野村さんとは対照的に少しずつ時間をかけて作品を仕上げていく。

■色や絵具の触覚を自分の身体で確かめるように手で描いてゆく作家と、考えを巡らし思想をもって制作する作家。二人の作品を化粧という行為に結びつけて見せるこの展覧会の試みは面白い。山の上で「ヤッホー」と叫ぶ機会はめったにないが、声が反響し、同じように聞こえてきた感動と不思議は、それがどこから届くものか定かでなくても胸を踊らる経験だった。それぞれの感覚がこだまのように響きあうポイントを見ることができる。


「紅をさす」野村嘉代・おのさやか 二人展
2003年10月14日(月)~10月26日(日)
GALLERY RAKU
京都市左京区北白川瓜生山2-116
(市バス5系統「上終町京都造形芸大前」下車すぐ、叡山電鉄「茶山」駅より徒歩10分)
10:30~18:30(最終日17:00まで)
入場無料
TEL.075-791-9122


art191_04_2おのさやか「うつつ<と>うつつでない夢」


art191_04_3おのさやか「うつつ<と>うつつでない夢」


art191_04_4野村嘉代「flesh」


art191_04_5野村嘉代「seed」


art191_04_6手前から、おのさやか
「わたし<と>わたしでないわたし」-我-
「わたし<と>わたしでないわたし」-吾-

2003-10-14 at 11:57 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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