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2003/03/23

椿昇展

「仮想セヨ」


art177_01_1UNapplicationマーク(浮遊化と羽ばたき)を背にした演台。壁には、現国連加盟国が実際に使用している銃の60のモデルガン。安保理の座席レイアウトは円形なのだが、演台に向かう教室型には軍のイメージも?

■そこには解放軍がいた。アメリカの解放軍ではなく、国連の平和維持軍だ。椿昇の「国連少年」展は、3月20日のイラク攻撃の3日後に始まった。予定されていた展覧会の中止で、森司学芸員との対話を通じて90日間で具現化したという本展は、だが現況に照準を合せたのではない。この展覧会は、平和教育とアートを融合させた「UN application project」の一環だという。これは「戦後(処理)」問題について、過去になし得なかったことを現在に試し、未来に対処する長い時間軸が示されているように思う。

■「UN application」とは、国連のマークを再構成したもの。米英が国連の機能を貶め、月桂樹の羽は着地点を見出せない。平和維持軍とは言葉通り、存在自体が不合理だ。「ブルー・ヘルメット」と呼ばれる国連平和維持軍の部屋は真っ赤。壁には、60丁の銃。デザインに惹かれて近付くと、センサーが鳴る。

■椿は、ユーモアを交えた大きな「ゴッコ」を展開し、アートのもつファンタジー(仮想)の有効性を示す。暴力に対して力で対抗するのではなく、脱力させる。普遍的なものを思い至らせるために。そして、風刺をモノに託すことで、多義的な解釈を導き出せるように。恐怖が生む「反××」という一方向の力は、結局どちらも解放しないから。

■長い廊下の先に、ジャック・デリダの通告「誰も無実ではない」。UN applicationのメカ工場には、劣化ウラン弾を処理する巨大テディベア「TETSUO」がいる。劣化ウラン弾は、湾岸戦争でイラクに落とされた放射能兵器で、イラク国民のみならず米英軍も被爆し、その子供にも後遺症が出ている。弾を飲み込むペットのテツオ。テツオの武器は、(自衛のための?)張り手などしかない。無情にも鍵は、ゲームのようにひねられる。

■地雷除去ロボット「ペンタ」は、地雷シールに囲まれて立ち往生。対人地雷は、子供がおもちゃと間違えて近付いてしまうほど、現実でもさまざまなデザインがされている。地雷は1個の製作に400円。除去するには1万円かかる。この壁の分でいくら必要か。各国の分担金による国連の資金は財政難である。(米国の延納額が1位)

■TIME TRONによる国連軍のコスチュームは、戦車の轍がついた服や、水死体の服などを着ることで、敵の目を撹乱して逃げることをポジティブに訴える。指令室でのウォーゲーム。最後、巨大映像の裏側を回ると、誰もがこの戦争に加担していることに気づく。自覚できるなら逃れよ。戦わずに、枠組みからすり抜けろ。

■戦後の日本。作家は、アメリカの抑圧と解放という矛盾の中で、虚無と戦った。しかし、市民にとっての美術はどうだったろう。今なら美術館は、四角い箱があれば、非武装の砦にも、平和を創造する教室にもなれる。戦後の美術館再建は、国家の手で行われたが、どこにも帰属しない自発的な組織もつくれる。本展が、今村創平(会場構成)、有馬純寿(サウンド設計)、ドミニクチェン(シナリオ)などのチーム体制(これも軍)で、ネットワーク・テクノロジーで事を運んだように。

■公立の美術館でようやく実現した即時対応に、家族連れを含め多くの観客が足を運んでいる。個人で考えるための道標として。美術館は、解放の基地となる。

椿昇展-国連少年
2003年3月23日(日)〜6月8日(日)
水戸芸術館
茨城県水戸市五軒町1-6-8 
(JR水戸駅北口、4〜7番乗り場よりバス、泉一丁目下車、京成百貨店裏手)
9:30〜18:00
月、5/6休(5/5開館)
TEL.029-227-8120

words:白坂ゆり

art177_01_2プロジェクトを担った椿組TEAMIMIのメンバー。クボタ鉄工の社員など技術のプロが揃う。右は椿昇


art177_01_3壁面の黒板に、ラムズフェルド国防長官の会見やアントニオ・ネグリらの提言が書かれている


art177_01_4TIME TRONデザインによる国連軍コスチューム


art177_01_5Unapplicationのメカ工場。劣化ウラン弾を処理する3号機モンスターベア「テツオ」。共同作業で、鉄のぶつかる生音を体験


art177_01_6対人地雷のシールに囲まれた7号機 地雷除去ロボット「ペンタ」。


art177_01_7プロモーション・ルーム

2003-03-23 at 08:12 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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