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2003/02/21

vol.45 片野 満(Mitsuru Katano)

「ずっとビギナーズ・ラック それがカッコイイと思う」

eye46_katano

京大西部講堂内の壁いっぱいに描いた絵は、もう8年も前にみたのに、私の脳裏に鮮明な印象を残している。活動は決して目立ってはいないがいつも気になる存在としてひっかかってきた片野満。マイペースなんだけど、いつ何をやり出すとも限らないそんな内に秘めたるパワーを感じるアーティストだ。そして、どんなことがあっても絵を描くことをやめることがないだろうと確信できるアーティストの一人だ。そんな片野満に思いきってインタビ ューを申し込んでみた.

■海外での活動

学生時代にイギリス(RCA)に留学。その後、また文化庁の派遣でイギリスへ滞在されましたが。イギリスの魅力は?

そんなイギリスにこだわりがあるのではなくて。たまたま学生時代の留学が縁で知り合いもいたし、といったくらいの理由です。イギリスの美術そのものが好きだとか、 そういうことではないんです。ただイギリスが面白いのは、美術が単独であるんじゃ なくて。ファッション、音楽、演劇などと常に連動しながら流れをつくって何かが起 こる。こういうのはイギリスだけじゃないかと思うんです。パンクになると皆がパン クになってしまうし。

日本とイギリスの違いで感じていることなどあれば教えて下さい。

ヨーロッパには、カトリックとプロテスタントとか宗教間にいろんな対立がある。信仰が芸術の根っこにそれぞれある。学習では変わらないものが彼らのなかにはあると思うんです。イギリスと日本はそれぞれ島国だから似ているところが、なんてことを言う人がいるけれども、全く違うと思います。イギリスの人は合理性を追求しますからね。

ワルシャワで展覧会を開かれたきっかけは?


ポーランドは英国人の知り合いが、画家の国際シンポジウムと付随するアート・イン・レジデンスに紹介してくれて、一緒に1998年に行ったのが最初。その後、毎年各地をそうやって廻ってるうち、目敏い知り合いが「個展やらへんか?」と招待してくれたんです。

ワルシャワの人の作品への反応はどうでしたか?


違うランゲージだね、と言われることがある。感覚的に彼らにとって理解不能な部分があるというのはわかっている。でも、僕の作品について彼らは理解してもくれている。

音楽活動もしておられますよね。


イギリスもポーランドもミュージシャンのレベルは高いし、音楽関係の友人はたくさんいます。むこうでもライブなんかをいっしょにするし。いっしょにやっていて、一番思うことは、彼らはすごく自由なんです。でも、底にある倫理観というかモラルのあり方が違うんです。だから、彼らは自分達ではもどかしく感じていることもあると思う。


■制作のスタンス

プロフィールをみていると展覧会のペースはわりと不定期のようですね?


月1枚くらいのペースでタブローを描いているしコンスタントに制作はしているんですけどね。個展なりグループ展に出すということは、自分の中にある振幅のようなものをどう見せていけるか、とか考えるんですよ。振幅がある方がいいから、逆に作風に統一性はないほうがいいと思ってます。 「でも一般的には一回の展示に統一性があったほうがいいんだろうな」とは思います。仮にそうなるとBest of....の際、僕は作品抜粋に困るかな。基準はないんですが、毎年個展をやるとか、そんなふうに決めて見せる必然性はないと思っています。視覚的圧力ってあるじゃないですか。そういうのが、3、4年たつと変わっていったりする。トレンドみたいなものが変化してゆくように。

視覚的圧力というのは具体的にいうとどういうことですか?


衝撃かな。目に限らないけど、普遍的なものというのではなくて、その時期が過ぎたら、インパクトを失うものというのが美術にも文学などにもあると思う。 そういうことが理屈抜きに移り変わっていくということがあると思うんです。

三枚組の横に長い作品や正方形に近いかたちのものなどいろいろあるのですが。作品の大きさはどういう理由で決まるのですか?


あらかじめ構図を決めてスケッチをつくってから描くのではなくて。僕の描き方はきわめて即興性の高いものですね。ストーリーが関係している作品、そうでない もの。けっこうこれまでオールオーヴァーな描き方だったけど、最近はちょっと変わってきたし。大きさを決めるときには、僕個人のそのときの体調とか表現したいことの幅も関係してきますね。突然思い立って出てくる表現方法なんかがあったりして。

キャンヴァスのなかの構図のとり方で、線でいくつかに画面が分割されていたり、 窓のようなものが描かれていたりしますよね。


ルネサンスより前の中世のイコンのなかにメダリオンというのがあるんですが。それに似ているというか。画面内に画面をつくるといってものですが。でも僕がやると全然違うものになっていますが。

アトリエには複数の制作途中の作品がありますが、いくつかの作品を同時にいつも手掛けられているのですか?


いつもというわけではないけれど、しりとりのような感じに要素が連鎖していって、 複数の絵を同時にシンクロさせながら描いていることはありますね。

輪郭線を描いてゆくのは特徴的ですね。


以前に描いた絵の記憶から、手法にルールをつくって描くようなこともしますね。現代的な線のありかたとか、そんなフィーリングを自分の絵にももってきたいと思ったんです。


■アーティストとして

影響されたアーティストとかいますか?


いつもマイブームみたいなものはあります。CDや本を買い込んで、聴きあさったり、読みふけったり。芸術や音楽はその作った人のファンタジーの中に入るこ と。哲学もひとつのファンタジーかもしれないと思います。この世に絶対的なものなんてないでしょう。リアリティのあるファンタジーというのかな。

どんなふうにこれから活動してゆきたいですか?


16〜7年やっていると、昔の自分の作品を見ると、知識といった面でも技術的にも上達してくる。でもそれを自分のスタイルの「洗練」にはしたくない。「洗練」というのは僕にとってはとてもイメージの悪い言葉で、「熟れる」ということに近い。そんなふうにならないように、熟れてきたら、ちょっと時間をおいてみるようにするんです。ギターやドラムでもそうなんですが。ヘタ上手ってことじゃなくて、ヘタな面白さってあると思うんです。そういうのが今どんどんなくなってきているように思う。 僕はずっとビギナーズラックやねん、それがカッコイイと思うし、憧れます。

片野さんの生き方の美学?


ミュージシャンでもアーティストでも、どんな世界にも完成度の高いものやクオリティの高いものがあって、マイスターがいる。でもそういうのって、日本ではここ20 0年くらいの概念かと思うんです。違う価値観があっていいと思う。Uターンする時、絵画にとって、そこが 重要なポイントかなと思います。

 
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words:原久子


eye46_01
「hitch-hiker」1996
oil,spray on canvas 186×150cm

eye46_02
「Lovers」1997
oil,spray on canvas 220×180cm

eye46_03
「Holy Bikers」1997
oil,spray on canvas 240×180cm

eye46_04
「Hi Vision」2002
oil,spray on canvas 81×117cm

eye46_05
「icy」2002
oil on canvas 63×70cm

eye46_06
「sabotage」2002
oil,spray on canvas 145×112cm

eye46_07
「tenement lady」2002
oil,spray on canvas 63×70cm

eye46_08
「piccadlly circus」2002
oil on canvas 70×63cm


片野満
(Mitsuru Katano)

1967年 大阪市生まれ
1989年 京都市立芸術大学美術学部美術科油画専攻卒業
1990年 英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート絵画科に交換留学
1992年 京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻油画修了
1996年 文化庁芸術家在外研修員として渡英
個展
1989年 ONギャラリー/大阪
1995年 大阪府立現代美術センター/大阪
1996年 ABCギャラリー/大阪
1997年 ACME artist studios,London
2001年 ギャラリーsowaka/京都
2002年 jaz got/文化科学宮殿 ,warsawa
その他
1995年 絵画の方向95/大阪府立現代美術センター
ロックン壁画展/by N.C.M.K.F./京大西部講堂、京都 など

2003-02-21 at 12:40 午後 in アーティスト・ヴォイス | Permalink

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