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2002/08/23

vol.41 河合 勇作(Yusaku Kawai)

「自分の思想の中で移動するようなものをつくりたい」

kawai

夏の暑い日、地下の画廊に入ると、天井に届きそうな巨大な自転車に出会った。とても軽そうだが、サドルに乗ってどこかへ行ってしまえそうな気がした。正面 からも側面からもラインの幅を同じにするという鉄則を掲げ、鉄板溶接でドローイングに忠実に制作された彫刻作品。「Migration(移動)」をテーマに、思考で時空を作り上げる河合勇作さんを取材した。

河合さんは作品の「手跡」にこだわっていますよね?

■基本的に手跡が残っていない作品は好きじゃないんですね。作家の息吹が感じられるものが痕跡として残っていないとイヤなんです。ずっと前からそうですね。これからはパブリックな作品もやっていきたいと思っているのでそうなった場合はまた変わるかもしれませんが、根本には手でつくり続けたい気持ちがあります。

鉄の塊じゃなくて空洞にしているのは?

■例えばね、鍛金というのは大変なんですよ。規格材を買ってきて叩きますよね。片方を叩いてもう片方を叩かないと面 ができない。僕の場合は、360度どこから見ても同じ太さに見えるように溶接で鉄板をくっつけているんです。どこで切っても断面 が正方形になるようにしているんですよ。

だからでしょうか、とても軽く見えますね。

■作り方が難儀な作品って、見る方もそれなりに大変だと思うんですよ。息苦しいものになってしまったりして。ですからあまり難しくない手法で作っています。誰にでも簡単に作れそうな印象を与えつつ、深いものができればなと。もっともっと軽くしたいし作り方もラフにしたいですね。

まずドローイングありきなんですね。

■自分がさらっと描いたドローイングを、型紙のように鉄板を切り抜いて立体化していくんです。展開図は描きません。線の接点部分の処理などは試行錯誤ですね。平面 で描いたものを立体で立たせるために、車輪を2つにしてみたり。おかしいところはクラフト紙で模型をつくって考えます。
先ほども話しましたが、線の厚みを正面からも側面からも同じ幅にすることにこだわっています。一見平面 っぽい作品ですけど自分では立体だと思っていますし、そういうところを結構大事にしているんです。鉄板を切るのは鼻歌まじりでできる楽しい作業ですよ。側面 をつくるときはドローイングにマーキングしながら合わせていくんですけど、それが意外に大変なんですね。全部厚みを一定にすれば楽なのかもしれませんが、それだとどうも納得いかないんですね。彫刻じゃなくなるような気がしてしまって。

どんな経緯で同一幅の線にこだわるようになったんですか?

■初期の頃は帯状の鉄板を巻いて立体をつくっていたんです。でも4.5ミリという鉄板の厚みは変えようがなかったんですね。どうしてもそこから抜け出したくて、それで厚みの変えられる線幅に忠実な造形を考案したんです。それ以来、厚みから解放されて気持ちが楽になったんですよ。

乗り物をモチーフにしたきっかけは?

■渡米したときに、あまり仕事ができなかったので写真を撮ってばかりいました。子供と散歩することが多くて、一番撮ったのが飛行機だったんです。その頃からですね、乗り物をモチーフにするようになったのは。
例えば、子供って公園で三輪車をこいで向こうのブランコの奥まで行くことが大冒険だったりしますよね。これって大人の移動や旅行と同じレベルだなって。最初はそういう視点からはじまりました。それで見る人へのきっかけとして大人サイズの三輪車を作ったんです。実際に動いたり、映像で動かすというのではなくて、実物は動かない古くさい彫刻ですけれど、見た時に自分の思想の中で移動するようなものをつくりたいなあと思っています。このテーマでもうしばらくやってみるつもりです。

乗り物自体、少しずつ変化していますよね?

■ギャラリーソル(2001年)の個展では全作品乗り物を展示したんですが、かわさきIBM 市民文化ギャラリー(2002年)では出発点・帰着点ということで家をモチーフに取り入れました。器としての家「Vessel house」や飛行機を置いて、鑑賞者が作品の距離間を遊べるような空間をつくってみました。先月のギャラリーソルの展示は、「壁」という不動のものと作品をくっつけることでモノと止まっているモノの関係をつくりたいと思っていました。それで全作品を壁に寄りかからせたんです。壁から始まっているのか終わってるのか…という意図も込めて。

河合さんの作品を見た方のコメントを教えてください。

■ぱっと見て、「一筆書き」とか「重そう」とかよく言われますね。それまで抽象彫刻でしたから「これ、何々みたいだね」と言われたりして、ちょっとツライなと思うことがありました。今はダイレクトに作っているんで、「飛行機だよね」という率直な反応がすごくさわやかでいいかなと思っています。それに人はそこから先のことを見ようとしてくれるんです。

近頃、ステンレスも使っているとか?

■鉄はすごく好きなんですけど、許されないことが多くて。自分がこれで終わりという時に終わってくれるんですけど、そこから錆が出てきたりして悲しいなって思うこともありました。ステンレスは鉄よりちょっと堅くて手に馴染みにくいのですが、今後は使い分けを考えようかなと思っているんです。

最後にメッセージをどうぞ!

■僕の作品は写真では伝わらない部分が多いんです。ぜひどこかで現物を見てもらえたらと思います。想像していたものとはギャップがあると思いますよ。

 
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words:斎藤博美


eye42_01
Migration the way for it
(400x380x120cm,steel,2002)

eye42_02
Migration-a scooter from the wall
(230x180x210cm,steel,2002)

eye42_03
Migration-house ship from the wall
(35x40x47cm,stainless steel,2002)

eye42_04
2002年かわさきIBM市民文化ギャラリー(神奈川・川崎)
での会場風景

eye42_05
Seets through the door
(100x185x120cm,steel,2002)

eye42_06
Vessel house
(90x170x200cm,steel,2002)

eye42_07
2001年Galerie SOL(東京・早稲田)
での会場風景

eye42_08
上)Migration-boots (12x6x5cm,stainless steel,2002)
中)Migration-baggage (13x10x6cm,stainless steel,2002)
下)Migration-cloud house (8x14x6cm,stainless steel,2002)
eye42_09
2002年Galerie SOL(東京・銀座)
での会場風景

eye42_10
Migration above The clouds
(145x150x200cm,steel,2000)いわき市立美術館蔵


河合勇作(Yusaku Kawai)

1964年 神奈川県生まれ
1989年 東京芸術大学美術学部彫刻科卒業
1991年 東京芸術大学美術学部大学院研究科彫刻専攻修了
1997〜1998年 (財)ポーラ美術財団の助成によりアメリカ滞在

個展
1990年 かねこ・あーとGI/東京
アートフォーラム谷中/東京
1993年 なびす画廊/東京
1994年 INAX Gallery2/東京
1995年 かねこ・あーとギャラリー/東京
1996年 Gallery gen/埼玉
1997年 "ANOTHER FIELD" ギャラリー日鉱/東京
2000年 "MIGRATION" Galerie SOL/東京
2001年 "MIGRATION MOON" Galerie SOL/東京
2002年 "さまざまな眼126" かわさきIBM市民文化ギャラリー/神奈川     
"MIGRATION from the wall" Galerie SOL/東京

2000年 現代日本美術展(東京都美術館・京都市美術館)で大賞受賞
パブリックコレクション:いわき市立美術館

2002-08-23 at 01:43 午後 in アーティスト・ヴォイス | Permalink

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