« 松井紫朗展 | メイン | 光の記憶展 »

2002/01/11

vol.36 法貴 信也(Nobuya Hoki)

「絵のなかの単層を単層のまま多層化したい」

houki

ドット(点)や線で描いた絵のなかには、ナゾの動物風のキャラクターが登場する。形をすぐ画面のなかに探してしまい、それらのキャラクターに目を奪われがちになるが、単純そうに見える画面のなかに実は様々なものが見て取れる。まるで宝探しゲームでもするかのように、法貴の作品を見ているとついつい目をさらのようにしてしまう。3月にはVOCA展(上野の森美術館・東京)で作品が展示される予定だ。

制作にかり立てられる動機について教えてもらえますか?

■絵を描く衝動というのは子供の時からそうだったんですが、高校生のときまで、毎日、鉛筆で何か落ガキのようなものでも描いていないと気がすまなかったんですよ。母親が勤めていた会社でいらなくなったウラ紙をもらったりして毎日描いていたから。そういうふうに自分をかり立てるものがものが何なのか、とかあまり考えたことがなかったです。

具体的に描きたい対象が当時あったのですか?

■顔とか木とか、そんなんばっかり描いていましたね。気になって記憶の中に残っていた看板の一部とかを描いたり、そういうものにどんどん何か付け足していったり。

子供の頃のそういった部分は今でも変わらないですか?

■そういうことが描くことの基盤としてあることは大事にしたいし、そういうことを起点にして描いてゆきたいです。昔に描いた絵はどんどん捨てていました。すごく気に入っているものでも捨てていましたね。描くことが大事で、残すことにはあまり興味がなかったんです。また明日も描くやろし、とか思って。でも、6、7年前からは残すようになってきました。ファイルというか封筒のようなものに入れておいたり。気になった切り抜きとか、いろんなものをざくっと入れていて。写真や言葉などなんでも気になったものを残していましたね。ときどき捨てたりするんですが、それでも残っていくものがあるんですよ。

キャンヴァスを何枚かつなぐなどして完成させるペインティングをされていたことがありますよね。どうしてああいう方法をとるようになったんですか?

■大学を出たばかりの頃、何が描きたいかもわからず、でも何か描かなくてはと思って、前に集めていた写真などを取り出して、それを描いたりしていたんです。部屋も狭いから、大きなキャンヴァスを使うこともできないし。スクラップのような感覚というか、これを描いた後にこっちを描いて組み合わせていくといいんじゃないかなとかそんな感じでした。トランペアレンシーとか、ダブルイメージとかそういうことも気になっていたんです。けれど、重ねてやっていくととどこかでやめなくてはならない。そういうやり方ではなくて、見る人の頭のなかでそれがダブルイメージのように重ねていけばいいわけじゃないですか。キャンヴァスを組み合わせていくことでそれができるような気がしたんです。

キャンヴァスを組み合わせて成立させるペインティングから、最近のドット(点)や線で描いてゆく作品に変化してきたわけですが。そのプロセスをお聞きしたいのですが。

■5、6年前にキャンヴァスを組み合わせた作品を作っていた後半は苦しかったです。再現的に描くと物語性が見えてくるし。組み方、モティーフの選び方に法則のようなものが出来てきてしまって、ちょっとこのまま続けては出来ないなと思うようになったんです。それから、B5やA4の紙にドゥローイングを描いては、組み合わせて展示するようなこともしていたのですが。タブローを描く気持ちがわかなくなって。2、3年ドゥローイングばっかりやっているうちに、単純にこいつをデカクしたらどうなるのかという気持ちになってきたんです。でも市販の筆では思った線がでない。それを描くために並行して新しい道具つくりの開発に取組んでいました。

作品によく出てくる円形ですが。これは何なのですか?

■面とも輪とも言えるような、あえて保留された場所を画面の上につくることで、その周辺が飛び出してきたり、へんな奥行きがでてきたりするんです。只その円を線でなく塗りつぶした面にすると、保留された場所でも何でもなくなってしまうんですが。先に円を描くんですね。円だけの絵がまず出来るんです。そうすると空いている所が違う密度になるんです。

3つの方法を使って描いているということなんですが、その3つ方法とは?

■点々のドットのようなものと、うにょうにょした線、それから3つめに「盲点」という名前をつけたんですが、円形。その3つですね。何故そこに至ったかというと、絵のなかの「単層を単層のまま多層化したい」という思いがあるんです。マジックや墨で具象物を描くと、濃度や線の太さ細さで遠近が作られてゆくことがありますよね。そういった分離を意識的に抽出してみたい。層を作ってゆくやり方のスタイルはばらばらだけど、3つの方法に共通する考えがあるんです。

画面に登場してくるキャラクターは、結構ファンシーというか、可愛いさのあるものが目につくのですが。モティーフを選ぶときのポイントはなんですか?

■そういったものは特にないんですが、描いているとどうしても出てきてしまうものがあります。植物や岩は線と骨組みが一体になっていて、モノが線によって出来上がってゆくから、描いても後で快楽が大きいですね。

これからトライしてみたいことはありますか?

■ある種の実験みたいな感じでずっとやっているんですが。やったこと、これまで出来ていないことはメモしているんです。いろいろあって、どれを優先させていいかわからないんですが。さっきから言っていた層を分離させたいということについては、もっといい方法があると思うし。もっとうまく層をつくってゆく方法も考えてゆきたいです。3つの柱と、色を使ってコントロールできるようになって、自分の表現したいものと合わせられるようになってはきていますが。解決していない問題もたくさんあります。それに要素を複雑にしたからといって、それが高度なことをやっているわけではなくて、単純なもののほうが強い場合もあるし。自分にも、見る人にも伝わりやすく、感じてもらいやすいものにしたいと思いますね。あとね、キャラクターの数は増やしたいですね(笑)。

いま絵以外にやりたいこととかありますか?

■絵で空間をとらえることが解決したら別なことをしてもいいけれど、それがなかなか解決しないし。一つの問題が解決したかと思ったら、また次の問題が出てきたりして。そう簡単に終わらないですよね。日本の近世の絵師のやっていることなんかも気になったりして。でも、昔のこととしてではなくて、何でオモロイんか、ということについては今のこととして僕には気になるんです。
------------------------------------------------------------------------

words:原久子

eye37_01「無題」(2001) 18.2×25.7cm 紙にフェルトペン

eye37_02「無題」(2001)25.7×18.2cm 紙にフェルトペン

eye37_03「無題」(2001) 25.7×18.2cm 紙に色鉛筆

eye37_04 「無題」(2001) 25.7×18.2cm 紙に色鉛筆

eye37_05「無題」(2001) 25.7×18.2cm 紙に色鉛筆

eye37_06「無題」(2001) 25.7×18.2cm 紙に色鉛筆

eye37_07「無題」(2001) 25.7×18.2cm 紙に色鉛筆

eye37_08「無題」(2001) 25.7×18.2cm 紙に色鉛筆

eye37_09「無題」(2001) 18.2×25.7cm 紙にフェルトペン


法貴信也(Nobuya Hoki)

1966年 京都生まれ
1991年 京都市立芸術大学美術学部卒業
1993年 京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻修了

個展
1991年 ONギャラリー/大阪
1992年 ONギャラリー/大阪
1993年 ギャラリー白/大阪
1998年 ONギャラリー/大阪

グループ展
1995年 アーチストブック展(ヴォイスギャラリー/京都)
サブスタンス4 展(京都府立文化芸術会館)
1996年 美術小説/小説美術展(ヴォイスギャラリー/京都)     
天然知能展(ギャラリーそわか/京都)
1997年 ブックワークス展(96年:ヴォイスギャラリー/京都)
天然知能エキスパ(京都市四条ギャラリー)
ウズマキスタジオ展(ウズマキスタジオ/京都)
1999年 CONPACT DISC展(神戸アートビレッジセンター)
金岩幸也との音楽ユニット「フルーツ」で参加
2000年 ARTWORKS ON Z・P 4(ヴォイスギャラリー/京都)
ドローイング展(99、98年:ギャラリーそわか/京都)
フィギュラティブ・センス展(京都芸術センター)
2001年 ARTWORKS ON Z・P 5(00、98、97、96年:ヴォイスギャラリー/京都)
マルチプルマーケット(00年:ヴォイスギャラリー/京都)(パレスサイドホテル/京都)

2002-01-11 at 12:25 午後 in アーティスト・ヴォイス | Permalink

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
https://www.typepad.com/services/trackback/6a014e885bb6e5970d015432c748c7970c

Listed below are links to weblogs that reference vol.36 法貴 信也(Nobuya Hoki):

コメント