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2001/11/30

萱原里砂写真展

「川のムコウ」

art145_01_1展示風景

■東京郊外の住宅都市を走る電車の路線に「多摩川園」というものさびしい駅がある。多摩川が見えるこの高台の駅で降り立ち、広い場所を探して歩いていって、この場所に出会ったのだそう。岡崎京子のマンガ「リバース・エッジ」ほど建物に近い感じではない。とはいえ、どこで撮ったかはさほど重要ではない、無名的な風景。

■空との境界を見失うようなうすぼんやりとした遠景を眺めているうちに、世界の「へり」みたいだと思った。しかしそれは、海の向こうほどの、地球的あるいは胎内回帰的な、計り知れないスケール感ではない。

■人間は写っていないが、橋や遠くに見える建物など、現在の人間の生活とのつながりの気配がする。流れ着いた旅の重さを声高には気づかせない小石、その名前も気にならない草など、いつも同じようでいて静かに変化しているものたち。

■水かさによっても表情は変わる。それは、撮影者の萱原が立つ位置によっても実感されている。中州に立つと、そこは地面になったり、川底になったりするという。何度訪れても二度と同じようには撮れない。“空間"として変容しているのだという。

■その変容の最大の原因は、光だ。ものの影が映るようなまぶしい光ではなく、もの自体のディテールがくっきりと浮かんでくる、曇り空に近いような淡い光。影は存在感が強すぎて生々しいのだという。光は、そこにあるものすべてに等価に注がれている。

■萱原は「都市の建物の風景は変わらなくて興味がもてないし、かといって見知らぬ人に近づくスナップショットのような瞬時に捉えることも苦手。要素を絞って、じっくりとつきあえる対象が河川敷だった」と語る。漠然とした遠くを傍観する視線は、遠くを引き寄せようとも、つかまえようとしているのでもない。遠くを遠くのままに、距離をもって触れている。

萱原里砂写真展「watershed」
2001年11月30日(金)〜12月11日(火)
LIGHT WORKS
横浜市神奈川区栄町5-1YCSビル1F
(横浜駅東口より横浜ポートサイド地区へ)
10:00〜18:00(12/11は〜17:00)水休
TEL.045-450-5045

words : 白坂ゆり

art145_01_2以前は道を撮っていた。その流れが見える写真。

art145_01_3以下「watershed」より

art145_01_4

art145_01_5

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2001-11-30 at 10:43 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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