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2001/06/23

アラキミドリ

「ケーキを甘く見るな」

135_04_1会場風景

■「Junk Sweets」というこの展覧会は同名のアートブックをベースにしたインスタレーションである。見に来た人は、ケーキとテキストはアラキミドリ、写 真をホンマタカシが担当した本のなかに、身を置くことになる。本のなかに飛び込んでしまえるのである。飛び出す絵本よりもっとリアルな体験が出来る空間がギャラリー内にあった。

■アートブック「Junk Sweets」は、97年にすでに雑誌の連載としてビジュアル作品を発表したものに、新たにテキストをつけて編集したものだ。アラキミドリは編集者として主に雑誌の編集を手がけてきた過去がある。編集者時代にもページを丸ごと企画してカメラマンに撮ってもらったり、という方法もとっていたので、ディレクション側とクリエイティブ側の狭間のような仕事をしてきた。美大出身のアラキにとっては、編集者としての時期というのは、アートと客観的に付き合うためのクールダウンの時間でもあり、自分にさまざまなチャンネルを与えるための時間でもあった。

■甘いケーキでつくられた作品。でも、内容は甘ったるい話しとは限らないようだ。ケーキは予想がつかないようなカタチにつくっても、カワイイものとして受け入れられてしまうナルシズム感のある食べ物だとアラキは云う。料理本でも、ケーキの写 真はケーキであるだけで、愛玩っぽく、撮る方も幸福感を楽しんでいるように感じると。確かに、ケーキはケーキというだけで幸福な存在とされ、その反面 、不幸な部分も背負わされている。アラキはそんな歪みを提示すべく、あえてケーキに挑んだ。撮影を担当したホンマタカシには、モノとして愛着を込めずに撮ってもらうようにしたという。

■「少年よ、家を捨て、森へ逃げろ。#1〜#3」では、白いクリームがたっぷりついた壁に赤い屋根の可愛いイエが、次第に変化してゆく。ビデオの中ではケーキが爆破される。ギャラリーに展示される作品となったケーキ、ケーキの爆破ビデオ、といった非日常的な行為のなかで、淡々とした日常を感じさせる会話がビデオにかぶさっている。聞こえるような、聞こえないような隣のだれかとの会話。食べ物と同じ生活感を漂わすファクターとしてそこに会話が流れている。

■アラキはこれまでもデザインとアートとの境界を行き来するような活動をしてきた。媒体を意識しないように提示してゆきたい、と彼女は云う。両者を分けることなく、彼女が狭間を行き来するのをみながら、受け手もさまざまな位 置から楽しめばいいのではないだろうか。文脈をいろんなかたちにズラしてゆける浮遊感がいい。

■7月1日からニューヨークのP.S.1ではじまった「Buzz Club: News from Japanにも参加しており、パリで9月末からはじまる「Beyond Designers in Japan」という展覧会にも出品するという。すでに海外でも要チェックのアーティストとなっているようだ。

アラキミドリ『Junk Sweets』
2001年6月23日(土)〜7月17日(火)
graf gallery
大阪市北区中之島4-1-18 grafbld
12:00-20:00  水休
入場無料
TEL.06-6459-2082

words:原久子


135_04_2 「少年よ、家を捨て、森へ逃げろ。#1」

135_04_3/「少年よ、家を捨て、森へ逃げろ。#3」

135_04_4/>ビデオ作品もコーナーに投影されている

135_04_5冷蔵庫のなかには、卵にミルク、てんとう虫のカタチをしたケーキなどがぎっしり詰まっている

135_04_6秘密の話を書いてはホッチキスで留めて封印してしまうようになっているノート

2001-06-23 at 09:48 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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