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2000/12/02

『夜の蝶』〜ラウル・セルヴェの世界〜

「魅惑の幻想アニメ」


■今回はちょっと趣向を変えてアート系映画をご紹介。ラウル・セルヴェというベルギーの監督による短編アニメーションで、1966〜1998年までの作品5本が一挙に上映されている。いずれも各映画祭やフェスティバルの受賞作だ。

■1作目「ハーピア」は部分的に実写がミックスされた作品。「夜、一人で歩いていると、ミスター・オスカーは強姦を目撃する」というチラシの解説を読んでいればコトの進行が理解できるが、そうでないとややわかりにくいかも。セリフもなくテンポが早いからだ。オスカーが助けた女性が実は首から下は鳥で、家に連れて帰ったもののとんでもない大食漢で、何もかも食べ尽くし、恩人であるオスカーの命すら危うくなる。思いあまったオスカーはついに女性を絞め殺そうとする。すると悲鳴を聞いた別 の男性がオスカーから女性を救い…で幕を閉じる。いわゆる堂々巡りの作品だ。

■「クロモフォビア」は、一番面白いと思った作品。カラフルな彩りの街に、黒い軍隊の群が侵入し、あらゆる色を奪ってしまうというもの。単純な描線で描かれたイラストレーションだが、反骨精神を秘めた興味深い内容だ。色彩のなくなった街がひとりの女の子の活躍で命を取り戻してゆく姿は、単純ながらも微笑ましい。

■「人魚」は最初から重々しい暗い画面ではじまる。巨大クレーンのひしめく港を舞台に、釣り上げられた人魚の死をとりまくストーリー。「語るべきか、あるいは語らざるべきか」は、真実を語れない社会を思いっきり風刺した会心の作。そしてタイトルにもなっている「夜の蝶」。これは画家ポール・デルヴォーへのオマージュで、デルヴォー絵画へ時間を与えた4次元世界が繰り広げられている。静止した2 人の女性に生命が吹き込まれ、ひとときの華やかな時間が現れる。これは幻視なのかそれとも…。セルヴェ・グラフィと呼ばれる独自の合成技術により、美しい幻想世界が生み出されている。

■以上、全5作あわせて1時間たらずの上映にもかかわらず、見た後の満足度は高し。同じ作家の手によるものとは思えない、バラエティに富んだ作風と内容だからだろう。貫かれた批判精神にもぐっとくるものがある。

夜の蝶〜ラウル・セルヴェの世界〜
2000年12月2日(金)〜2001年1月31日(水)
ユーロスペース
東京都渋谷区桜丘町24-4 東武富士ビル2F
( JR・地下鉄「渋谷」南口より徒歩3分)
レイトショー上映:21:10〜22:10(無休)
入場料:一般1400円、学生1200円、シニア1000円
TEL 03-3461-0211

※大阪/扇町ミュージアムスクエア(2001年2月上旬〜)、 神戸/神戸アートビレッジセンター、 京都/京都みなみ会館、 福岡/シネ・リーブル博多駅、 名古屋/シネマテーク、 札幌/シアターキノで順次公開予定


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「夜の蝶」
1998年作 ファンタジーあふれるデルヴォー世界が展開

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「人魚」
1968年作 かわいそうな運命の人魚

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「ハーピア」
1979年作 中央に立つのが鳥の体を持つ女性

2000-12-02 at 10:09 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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